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エッチな音にはご用心?
「昼間からよく飽きもしないな……」
1年以上の付き合いに天井から聞こえてくる「何かが軋む音」とは、思えば入居してすぐからの付き合いだった。
最初は夜中だったろうか。
ぎし……ぎし……と、聞き慣れない音がしたのは。
(え、何?お化け!?)
私は霊感がある訳ではないのだが、お化け屋敷に1人で入れない、ホラー映画は1人では見られない程のビビりだ。
なので勿論、得体の知れない音には敏感にもなる。
ぎし……ぎし………………ぎしぎし……。
時々途切れては、スピードが速くなったり遅くなったりと、規則性があまりないその音は、私を恐怖に陥れるのに十分だった。
日本にいた時だったら、慣れたふかふかの布団に包まることができただろうが、その部屋で支給されていたのは薄っぺらいタオルケットのみ。
頼りない布を被り、イヤホンで音楽を聞きながら、音が鳴り止むのをただひたすら待ったのが、初日のお話。
そんな恐怖な日々を1週間過ごしてから、私は予想外な方法でその音の正体を知ることになる。
その日は休日で、溜まっていた家事をこなしていた時だった。
部屋で洗濯物を畳んでいる時に、再びあの音が聞こえたのだ。
ぎし……ぎしぎし……。
(え、何でこの音が昼間にするの?)
霊現象は夜に起こるものだ、と勝手に思っていた私は、ようやくこのタイミングで察してしまったのだ。
この音が、霊現象などではない、と。
つまり、上で何かが起きているから、この音がするのだと。
相手が霊ではないと分かった以上、知りたくなってしまうのは好奇心旺盛な人間ならでは。
と言うことで私は、畳み掛けの洗濯物をベッドに放り投げて、音の正体を突き止めるために、上の階へとこっそり上がったのだが、そのおかげで気づいてしまった。
(ここ……トムの部屋だったな、そう言えば)
ついでに言えば、トムの部屋に一緒に住んでいるのが、あのお嬢様だ。
その部屋の扉越しに、微かに聞こえてくる音こそが、私が1週間眠れない原因となっていたあの音。
きっと、自分が経験者もしくは周囲に経験が豊富な人がいれば、もしかしたらたった1回聞いただけで察することができたのかも知れない。
その軋む音は、エッチしている時のベッドの鳴き声であるということに。
ちなみに、それに気づいた私の心が荒み、部屋に設置されてた枕に八つ当たりしたのは言うまでもない。
それからしばらくは、音が聞こえるたびに
「くそっ、このリア充共め……耳に毒なんだよ……」
と毒づきながら、イヤホンをしっかりはめて音が聞こえないように工夫をしていた。
自分の僻みもあったが、そういう音を第三者が聞くことが、何だか申し訳ないようにすら思ったから。
でも残念ながら、人間というのは慣れる生き物。
それから12月にかけて、私は風邪を拗らせて1ヶ月近く部屋で昼夜関係なく寝込むことになるのだが、この軋む音が昼夜関わらず聞こえ続ける日々を経て、私はいつしかこう思うようになっていた。
「飽きないのかねぇ……」
近くの中国系スーパーで安売りしていた果物を頬張りながら、エッチしている音を鑑賞しながら
(あ、今日はもう疲れたのかしら、スピードが上がらなかったけれど)
と勝手に推理するくらいには、肝が据わってしまった。
ちなみにこの時の私は、勿論彼氏がいない歴=年齢をちゃんと更新していた。
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