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お嬢様はお帰りに
シェアハウスというのは、ホームステイと違い、同じ屋根の下に住んでいても会おうと思わない限り、せいぜい玄関ですれ違うのが関の山。
私がこの2人とまともに会話したのは、なんと入居してから半年ほど過ぎた2012年の初夏になってからのことだった。
この頃、ちょうどお嬢様がビザの関係で帰国をしなくてはいけないという時期で、私が会話をしたのも、まさに彼女が帰国準備をしていた時だった。
まだこの頃、私の英会話は現地の幼稚園児の方が綺麗に話せるという残念なレベルではあったが、ヒアリングだけはできるようになったので、お嬢様との会話の中で、以下の内容は聞き取ることができた。
1つ目に、婚約はしたということ。
2つ目に、1度韓国に帰って資金を貯めてから、もう1度カナダに戻ってきたいと考えているということ。
たった2つだけだったが、この2つだけを聞けば
「ああ、交際は順調なんだな」
くらいは誰でも察するだろう。
例え、トムがニートで仕事を持っていなかったとしても。
実は元カノが10人以上いるような人だったとしても。
ついでにその内の1人とは子供まで作っているような人だったとしても……。
トムに関する情報は、実は初春には聞いていたのだが、自分には関係ないと思いスルーしていたし、この頃の私はといえば相変わらず彼氏ができていないにも関わらず
「恋愛は当人同士が良ければ、まあいいんじゃねえ」
(ただし私を巻き込んでくれるな)
くらいの価値観は持てるようになっていた。
というより、持たざるを得ない環境にいたため、適応した……の方が正しいのかもしれない。
そんなこんなで、お嬢様に「元気でね」を告げた私は、相変わらず
「彼氏できないなー。まあ英語ができるようになればどうにかなるだろう」
などと、良くも悪くもお気楽な気持ちで、何事も起きないトロント生活を満喫していた。
愛子さんがやってきたのは、お嬢様が帰国してからちょうど1ヶ月後のことだった。
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