トムのプロポーズ話

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トムのプロポーズ話

 さてさて。  トムという人間は控え目に言ってもニートだったが、ある日突然働き出した。  働き出したのは、私たちの家の隣に住んでいる、彼の親戚の男性が営んでいる塗装の会社。もちろん、仕事は塗装工。  ちなみに言えば、その男性の奥さんこそ、このシェアハウスに私が来るきっかけになったe-Mapleへ日本語で投稿してくれた日本人で、英語もカナダ生活も不慣れな私を助けてくれた、恩人だったりする。    トムが働き出した理由だが、なんと韓国までお嬢様に会いに行き、ダイヤの指輪をプレゼントしてプロポーズするためとのことだった。  それを私は、愛子さん伝で聞いた。  私は、お嬢様がいる間はほぼ毎日行為の音を聞かされていたことから、勝手ながら「見守り隊(聞守り隊)」にでもなった気分になっていたので (そうかぁ……本気なんだなぁ……)  と、感心した程だった。  この話をしてきた愛子さんも、まるで友人の結婚話をするかのようなサバサバ感だった。  しかも愛子さんも愛子さんで、定期的に日本にいる婚約者と連絡を取り合っていると、愛子さん本人から週1の頻度では聞いていた。  この事からも、私がトムと愛子さんの間には関係がなく、お互いちゃんとパートナーと仲を深めていると本気で信じ込んでしまっていたのだ。  例え周囲では、日本にパートナーがいるにも関わらず現地でもパートナーを作りよろしくやっている人をよく見かけていたとしても。  トムがカナダに戻ってきた後に、プロポーズ後のラブラブ2ショットまで見せられたら、疑う余地なんてあるはずがない。  ちなみに、私はと言えば。  せっかく気になる男性ができて、清水の舞台から飛び降りたような気でデートに誘ってみたら 「君は女だから恋愛対象じゃないんだ」  と言われてバッサリ断られた。  …………げ、解せぬ…………。  そんな日々に暗雲が立ち込め始めたのは、夏の終わり。  カナダで出来た私の友人が、1ヶ月程だけ私の部屋でルームシェアをすることになり、歓迎会が開かれた日だった。
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