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飛べない鳥
「心の中では泣いていた」で始まり、「いつもそこには君がいた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以上でお願いします。
*
心の中では泣いていた。
僕は笑顔を貼り付けて「大丈夫」と笑う。
「本当に?」眉根を下げて深雪は言った。
「大丈夫だって。今度カウンセリングルームの予約取るから」
「なら、いいんだけど……」
深雪は渋々と言った感じに頷いた。
僕は家に居場所がない。新しい母親は僕と2分の1しか繋がらない弟に夢中で、僕のことは放置している。
僕の分の食事なんてないから、僕はいつも家にあるもので何とかする。けれど、たまに何も無いのでその時は──悪い事だと分かっているけれど盗みを働く。僕は罪人だ。
父親はいるけど、居ないようなもの。
ネグレクトだとか世間的には言われるのかもしれない。
けれど僕はもう高校生だ。誰かに助けを求める歳ではない、そう思っている。
さっきのカウセリングルームの話も深雪を黙らせるための常套句だ。
家に帰ると、相変わらず母親は弟に付きっきりで僕に見向きもしなかった。
そっとキッチンに入り、食材をチェックするものの僕の使えるものは無さそうだ。仕方ないが今日はコンビニへ行こう。
少し離れた所にあるコンビニの防犯意識は本当に薄いからきっと今日も大丈夫。駅からも住宅街からも遠いので客も少ない、死角だらけなのに防犯カメラは偽物という場所だ。
歩いてコンビニへ向かい、まずは菓子コーナーに寄って1番安いチョコを手にする。これはレジで買うものだ。こうすれば怪しまれない。
それから冷蔵ケースへ向かって、塩おにぎりを1つ、自然にトートバッグに落とす。
そしてチョコをレジへ持って行って外に出た。
正直塩おにぎり1つと小さなチョコ1つでは足りないし、罪悪感しかないので全く味を感じない。
けれど口にするものがあるだけまだマシだ。後は少し歩いた先の公園で食べるだけ。いつも通りのはずだった──
「おい!そこのお前止まれ!」
突如怒号が浴びせられる。
振り返るとさっきのコンビニの制服を着た見慣れない男性店員が走ってきていた。
やばい、そう瞬間的に判断した僕も走り出す。しかし、ロクに食事を取らない僕の身体は重い。
──もう諦めよう。そう考えた瞬間だった。
「颯汰!」
振り返ると深雪が自転車を漕いでこちらへ向かっていた。深雪、どうしてここに? 理解が追いつかない。
「颯汰! 乗って!」
言われるがままに自転車の後ろに乗る。
「捕まって!」
細い深雪の腰にそっと手を添える。暑い感覚に思わずビクリとした。
「逃げよう! 誰も颯汰を苦しめない所まで!」
「え……」
唇から頼りない声が漏れる。
自転車はどんどん速度が上がっていく。が、後方から微かにファンファンとサイレンの音が聞こえた。
「深雪、もう諦めよう。このままじゃ深雪も犯罪者になっちゃう」
「でもっ……」
深雪は急ブレーキをかけて振り返ってきた。
「颯汰が自由になれないよ……」
「……いいんだよ」
僕は飛べない鳥だから。いいんだよそれで。
そう小さく呟いた時、パトカーが僕らの隣に止まった。
*
数ヶ月後。今日は児童養護施設に入所する日。児童相談所の前で僕は深呼吸をしていた。
僕は数ヶ月の鑑定を受け、児童養護施設に入ることになった。
僕が犯した罪は消える訳では無いし、100%家族のせいでは無い。
しかし、家に戻ってもまた繰り返すだけだと言うことで、僕は家を離れることにした。
深雪は高校を数日の停学処分となったが、状況が状況だなだけにそこまで重い罰を与えられなかった。
僕はその知らせを聞いた時、胸を撫で下ろしたものだ。
「颯汰!」
遠くから深雪が息を切らせながら走ってきた。
「深雪」
「高校、別々になっちゃったね……」
僕は高校を退学し、通信制の高校に通うことになった。
「高校違っても会えるよ」
「……うん」
「僕、深雪のおかげで自由になったよ」
飛べる鳥になったから。
まだ口には出さないけど、いつか深雪がずっと横にいてくれたら、僕はもっと開放される気がする。
いつだって、苦しい時は、いつもそこには君がいた。
*
ちょびっと加筆。
あんまり納得はしてないです……
⚠犯罪を推進、認めるものではありません⚠
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