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ラ・カンパネラ
お題:リストの『ラ・カンパネラ』を聞いてストーリーを即興で作る。
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「おめでとうございます、レベッカお嬢様」
「お似合いの夫婦ですね」
「ヘンリー、美人な奥さんを捕まえたな」
「お父様やお母様も喜ばれているでしょう」
周りの者や女中が口々に私たちを祝福する。夫となった、ヘンリーは幸せそうな笑顔で「ありがとう」と繰り返していた。胸の奥底がチクリと痛む。相応しい身分ということで親が一方的に決めた結婚相手。彼は確かに良い人だ。しかし、私は彼に愛情を持っていない。ズキズキと響く痛みをグッと隠し、笑みを浮かべた。
「ええ、幸せですわ」
ヘンリーに視線を向けると、彼はクシャッと笑みを浮かべ熱っぽい視線を私に向けた。
表面上はヘンリーを見つめているが、本当に私が視線を向けたいのは庭師のジャックだ。彼は決して美男というわけでも、富豪というわけでもない。しかし、小さな命に対しても、優しく穏やかな姿勢でいる彼は本当に素敵な方だ。そんな彼を私はいつもひっそりと見つめていた。
だが、ジャックと私は決して結ばれる運命ではない。ヘンリーと婚姻関係を結ぶと決めたのも両親だ。理由はただ一つ『うちの家の身分に相応しい』から。圧倒的な力を持つ両親には逆らうことが出来なくて、愛のない結婚が決まった。
不意にオーケストラの奏でる音楽が切り替わった。この曲は──『ラ・カンパネラ』だ。小気味いいリズムと華やかなメロディには、どこか憂いや切なさが隠れている。
「レベッカ、踊りましょう」
「……えぇ、喜んで」
ジャックとは違いスベスベとしたヘンリーの手が差し出される。真っ白なドレスを揺らしながら踊る。この繋ぐ手が、ジャックだったら良かったのに、そう思いながら。
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