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対峙
お題:敵と出会う場面
*
「久しぶりだな、ワガー」
美しい服を着た精悍な男性が、深く被った帽子をあげてにっと笑った。
「……ウンブラ」
ワガーは十数年ぶりに再会した、元・ストリート育ち仲間を呆然と見上げた。
ごちゃごちゃと散らかっている、古びた町にいるウンブラの姿はアンバランスだ。ウンブラはワガーの格好を見て不快そうに眉を寄せた。
「相変わらず、小汚い格好をして偽善者ぶっているんだろう。それにまだストリートで暮らしているのかい?」
ワガーは『名家に顔立ちがいいからという理由で拾われていい気になっているんじゃない』と言いかけたがグッと堪えた。
「まぁ、な。ウンブラはご立派な家で優雅に過ごしているんだろう」
そういうと、余裕の笑みを浮かべていたウンブラの表情が一瞬かげりを見せた。
「それより、ワガー、君はまだ人助けをしているのか? 特に、ストリートの子どもの」
「あぁ」
ワガーは警戒心を除かせながら慎重に頷いた。ワガーは幼少期、両親から捨てられ長年苦労してきていた。自分のような一人でも不幸な子どもを減らしたい、という信念の元、自分を犠牲にして援助を行っている。稼いだ金も全て子どもに使うせいで、成人した今もホームレス生活だ。
「君も僕と同様、捨て子で長年苦労したことはよく知っている。だからこそ、その活動をやめるんだ。意味なんてない、もっと不幸にするだけなんだよ」
ウンブラはギュッと目を瞑った。
「救済なんて、無意味な希望を持たせるだけなんだ。それを裏切られた時どうする? ただでさえ、信頼していた親に捨てられているのだから」
低い声で言うと、ゆっくりと目をあけた。自慢のシアンの瞳に正気はなかった。
大金持ちの家に拾われ、幸せに暮らしていると思っていたワガーは押し黙った。
「おっと、話しすぎたね。早く君がその荒唐無稽な活動を改めることを祈っているよ」
ウンブラは人を小馬鹿にするような口調に戻り、笑みを浮かべた。
ワガーが口を開こうとした瞬間、ウンブラは帽子を深く被り直し足早に立ち去って行った。
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