もしもここに居なかったら

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もしもここに居なかったら

お題 空音さんには「もしもの話をしよう」で始まり、「君には届かない」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字)以上でお願いします。 誤字を直し、改行、句読点を入れましたが原文通りです。 * 「もしもの話をしよう」  僕は隣に座る彼女の手に触れた。僕も君も健康体だったらどうなるか。僕は何度もそう考えている。  恋に明確に、タイムリミットがあることを何度も恨んでいる。こんなに君のことが好きなのに、苦しいくらいに愛おしいのに。大人になったら、退院できたら……家族になりたいのに。 「もしもの話をしたって、今現実に私たちはここで入院して、未来に怯えているよ」  そう言って彼女は目を伏せた。重い病気を抱え、残りの時間が限られている僕ら。そんな僕らの恋はあまりに儚い。  明日、いや1分後にこの関係が切れてしまうことだって有り得ることだ。だからこそ未来に怯え、もしもに縋る。  彼女の言う通り、もしもにすがった所でなんの意味もない。でも、健康で、普通の生活を送りたい。そう願わずには居られなかった。 「でも私は今幸せだよ。律とこうして一緒に話せて、満たされている。もっと、って欲張りたいけれど、律と出会う前はこんなに満たされていなかったから、充分なんだよ」 「……それは僕もだよ」  彼女と出会うまで、この病に身体を侵されたあとはずっと闇の中にいた。道なんて分からなくて、ただ暗闇で迷子になっていた。生きる意味なんてなかった。しかし彼女は迷子の僕にランタンを差し出して、手を引いてくれている。そのランタンを差し出してくれたのはこの病室なのだ。 「病気を何度も恨んだこともある。けれど、健康体だったら私たちは出会えなかった。出会えてよかったよ、律」  そっと唇を重ねた。生きてる、と感じる温もりが愛おしくてそっと抱きしめた。 「好きだよ」  本当に君は凄い。少ない言葉で僕を包んでくれる。そんな力はまだ僕にはないから、君には届かない。
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