絶望の淵

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絶望の淵

お題 空音さんには「言葉が見つからなかった」で始まり、「さようならは言わなかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以内でお願いします。 *  言葉が見つからなかった。  とうとう、彼女との関係が断ち切られるなんて。僕は知らせを先生から静かに伝えられ、呆然としていた。  大好きで、残りの時間を惜しむかのようにそばにいた彼女の突然の訃報を受け入れられない。いや、近いうちに僕らはバラバラになるのは付き合った時点で決定事項だった。  けれど、僕は期待していた。あともう少し一緒にいられると。夕方に話した時もまだ彼女は大丈夫そうだった。  昨日まで晴れていた空は真っ暗で、雨がザアザアと降り出した。  僕はいつの間にか、「また」に甘えていたようだ。「また」なんて来るか分からないと痛いほど知っているはずなのに。  触れると温かい手のひら、ふっくらとした頬に柔らかい唇。少しハスキーな声にイタズラな笑み。時にはツンと唇を尖らせたり、形のいい眉を8の字にしたり。綺麗な焦げ茶色の瞳を輝かせたり、潤ませたり。彼女の一つ一つの仕草に、行動に心を突き動かされたり。彼女の温もりを感じることも、もうないんだ。  そう実感すると共に涙が溢れたきた。息が苦しい。けたましく警告音がなりドタバタと走ってくる音がする。  ──どれくらいたっただろうか。目を覚ますと外は真っ暗だ。今が何日で、何時なのかも分からない。ぼんやりを外を眺めていると、控えめにノックが鳴った。振り返ると担当医の西尾先生と彼女のお兄さんが立っていた。しばしの沈黙の後お兄さんは震えた声でこう言った。 「最期に妹に会ってくれませんか」  ぼんやりと頷いて車椅子に乗り霊安室へ向かった。近いうちに僕が訪れるであろう場所はひんやりとしていた。車椅子から降りて彼女が眠る場所へふわふわと歩く。そっと彼女の頬に触れた。  冷たくて固くなっていた。涙が1粒頬に落ちる。さようなら僕の愛おしい人……そう思った瞬間彼女の声が蘇ってきた。『私たちはまた出会うんだよ』……そうだ僕たちは何度でも出会って恋をする、そう約束したじゃないか。 「またね……愛してるよ、美生」  僕たちはまた会えるからさようならは言わなかった。 * 律と彼女(美生)の別れ話が本編ではっきり触れていなかったので書いてみました。
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