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リボン
お題 空音さんには「音もなくほどけた」で始まり、「また一から始めよう」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば11ツイート(1540字程度)でお願いします。
*
音もなくほどけた。はらりと長い髪が肩に落ちた。僕は右手に握られたリボンを見つめて立ち尽くす。
「最後にそれ、あげる」
遠い外国へ引っ越すという幼なじみの未空は髪を結わえていた黒色のリボンを僕に渡すと、引越しのトラックに乗ってしまった。
「じゃあね、遥斗」
未空は軽やかに手を振った。
あっという間にトラックは見えなくなり、リボンがゆらゆら揺れていた。辺りには甘い匂いだけが残っていた。僕はとぼとぼと家に戻った。
「遥斗、お別れ言えた?」
リビングからお母さんがそう声をかけてきたけど、僕は黙って自分の部屋に戻った。青色のベッドにどかっとうつ伏せになると、涙がこぼれてきて枕を濡らした。未空が海外の中学に受かった、と聞いた時僕は曖昧な関係をハッキリさせたくて、長年の想いを告げた。
『未空、好きです。付き合ってください!』
未空は哀しそうに笑って『ごめん』と一言だけ言った。 あれから一ヶ月、整理がつかないまま未空はいなくなってしまった。
二ヶ月たち、僕は地元の中学に進学しそこそこ楽しく過ごしていた。
ある夏、僕は勇気をだして手紙を出した。軽い近況報告を書いた手紙。返信が来るといいな、なんて思いながらポストに入れた。
しかし、何週間経てど、返信はなかった。
がっかりしたが、手紙のことなんて忘れた冬、家に帰ってくるとなにやらお母さんの話し声が聞こえた。誰か来てるのかな、と思いながらコートを脱いで自分の部屋へ向かおうとすると、「遥斗、帰ってたの」と声をかけられた。
「良かったわ。未空ちゃん、帰ってくるって。日本に」
「……え? 一時帰国? 冬休みで?」
驚いて声を上げるとお母さんはアッという顔をした。
「そうね、遥斗には言ってなかったね」
お母さんは受話器を元に戻した。その時僕は初めて、電話と言うことに気が付いた。
「今未空ちゃんのお母さんから電話があってね、未空ちゃん元気になったから日本に戻ってこれるの」
「……どういうこと?」
未空は進学のため海外に行ったんだろう? 胸がザワザワとする。お母さんは静かに語り出した。
未空は難しい病気になっていて、日本では治療しきれず、有名なドクターに診てもらうため渡米したこと。日常生活は何とか日本で送っていたが、かなり危ない状況だったこと。そして、無事向こうで治療法が見つかり良くなったこと。
「──それで帰ってくるの」
どうして、と想いが過ぎる。
「どうして俺に言ってくれなかったの」
「未空ちゃんが遥斗には言わないでって」
俺は黙るしかなかった。未空は俺に隠してばかりだ。
その後未空は冬休みには帰るということ、しばらく日本で入院して療養し、二年生なる頃には俺と同じ中学に進学するということを聞いた。
*
クリスマス。
未空が帰ってきた。細くなった身体は車椅子に乗り、膝にかけられたブランケットがなんだか痛々しかった。変わり果てた未空に呆然としていると「遥斗」と懐かしく変わらない声で呼ばれた。別れた時は未空を見上げていたのに今は見下ろしている。
「未空……」
「びっくりしたでしょ」
躊躇いがちに頷くとクスッと笑った。
「大丈夫、今は疲れちゃうから歩かないだけだから。春から第1中だね、色々教えてよ?」
いつもと変わらぬ未空にホットして軽口を叩いた。
「おぅ、俺に任せろ」
「俺だって! 僕だったのに。可愛い遥斗はどこだ?」
「うるさいよ」
顔を見合せてクスクスと笑った。
*
アッという間に時間は経ち春が訪れた。ピンポーンと小学生の時のように未空家のインターホンを鳴らす。
「早く行くぞ〜」
「アッちょっと待って」
ドタバタと賑やかな音ともに新品の制服を身にまとった未空が出てきた。
「おまたせ! いこ! 遥斗と同じクラスになれるといいな」
「うん」
小学生の時のように並んで歩く。今こそ、今日こそ。
「なぁ」「ねぇ」
同時に声が被る。顔を見合わせると無言で未空が俺を指さした。
「やっばり俺、未空が好きです」
未空は目を丸くするとクスクスと笑った。
「私も遥斗が好きだよ。1年前は遥斗を悲しませたくなくて、断ったけど本当は好きなの」
そう、だったんだ……
俺は1年越しの願いがかなった喜びを噛み締めるように未空の手を握った。細く、でも柔らかい手に触れるのは久々だ。ようやく願っていた関係が叶った。
「未空、これ返すよ」
あの時渡された黒いリボンを渡すと未空はにっこりと笑って髪を結えた。未空は帰ってきたあの後、リボンは遺品のつもりだったと言った。でも、もうこの手を離さないから。
美しい空が、遥か彼方まで広がっている。
この関係を、また一からはじめよう。
*
リボンの伏線をTwitterで回収し忘れたので加筆しましたm(_ _)m
また最後はちょっとした言葉遊びです。
美しい空が、遥か彼方まで広がっている。
ってね。
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