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朝一番の憂鬱
「……いってきま、す…?え?」
口癖のように呟いて家を出た春は、家の前に立っていた男を見て絶望した。
男は、春をみて嬉しそうに近寄った。
怪訝に思った春だが、すぐに納得した。
逃げられないぞという意思表示なのだろう、と。
「…あの、呼んでくれたら迎えに行きましたよ」
「え?」
そして、言った後に思った。
田村瑞希の家を知らない、と。
そんなことも分からないほど気が動転していたらしい春は、気まずい空気が流れ始めたことに後ろめたさを感じた。
「ありがとう。今日、俺の家教えるな」
ぐるぐると考えが渦巻いている春に気づくこともなく、瑞希は喜んだ。
そして、春の手を取って歩き出した。
「ほら、登校デートしよう」
今なら誰も見てないからさ、なんて言って照れ隠しのために前を向いた。
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