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ちゃんさま。
これは僕が小学生だった頃のお話。
例のごとくと言えばいいのか、僕のおじいちゃんとおばあちゃんの家は結構な田舎だった。どれくらい田舎かというと、おばあちゃんの家に行くまで最寄駅からバスに乗って三十分、そこから徒歩三十分もかかるくらい遠かったほどである。
でもって、そもそも最寄駅が田舎中の田舎の駅であり(今はどうか知らないが、当時はなんとスイカが使えなかった!)電車の本数が二時間に一本。そこから出ているバスに至っては三時間に一本という状況だった。
田んぼとか森がずーっと続いている道をバスで行き、そこからもあぜ道をひたすら重い荷物を持って歩くという状況。伯父さんが来ている時は車で送って貰えるからありがたかった。田舎で年輩の人が、なかなか免許を手放せないのもよくわかる。あれじゃ、車がないと町の外に行くのも困難だろう。
「ん?」
そんな僕が、小学校四年生くらいになった時の夏だっただろうか。
いつもの帰省で大きなリュックサックを抱えておじいちゃん達の町まで歩いていく途中、奇妙なものが落ちていることに気が付いたのだった。
田んぼと田んぼの間のあぜ道、そのど真ん中に、キラキラ光る宝石みたいなものが落ちているのである。それも、拳大のでっかいルビーのようなものだ。
「お父さん、お母さん、あれなあに?」
僕は二人に尋ねた。
「なんかキラキラした宝石みたいなのが落ちてるんだけど」
「宝石?」
「うん」
僕が言うと、お父さんはじっと僕が指さす方を見つめた。そして、どこどこ?何も見えないよ、と首を傾げる。
驚いたのは僕の方だ。誰がどう見たって気づくくらい、でっかいルビーが落ちているのに。僕に見えてお父さんに見えないなんて、そんなことがあるだろうか。
僕とお父さんのやり取りを暫く見ていたお母さんは、やや引き攣った顔で僕の手を引っ張ったのである。
「行きましょう。稔」
「え?でも、あれ……」
「いいから。……おじいちゃんの家に行ってから、全部説明するから」
ちなみに。ここで出てくる“おじいちゃんとおばあちゃんの家”は、母方の家であったことも説明しておく。お母さんは大人になってから東京に出てきて、東京育ちのお父さんと結婚して僕を産んだのだ。
僕は意味がわからなくて不安だったが、お母さんの有無を言わさぬ雰囲気に押され、その時はそれ以上何も尋ねることができなかったのである。
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