カイル達は試されていた。

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 彼等に自由に地球を観光できる権利を与える代わりに、彼等のテクノロジーを地球の技術者に教えてもらう約束を取り付けた。彼等は争いを好まない性格で、自分達の技術が特定の国に独占されることを良しとしなかった。技術が世界中に国々に平等に配布されることを条件に、地球にはなかった様々な素晴らしい知識の数々を伝授してくれたのである。  それにより、トリオット星人が訪れた2051年以降の地球の発展は目覚ましいものとなった。  重たい宇宙服ナシでも、宇宙で活動できる特別な食糧だとか。  空気と水、土を配合して食べ物を作る方法だとか。  地球の農業がより効率的に行えるよう、トラクターなどの機械を改良する方法だとか良い肥料の作り方だとか。  殆ど雨がない地域や、極端に雨が多い地域でも育つ美味しいお芋の種なんかもたくさんくれた。地球人の今の発展はまさに、トリオット星人たちの協力なくして成しえなかったと言っても過言ではないだろう。 ――まあ、肝心のトリオット星人たちの正体については、分かっていないことも多すぎるんだけど。  僕は日本のいち科学者として、何度か彼等の一人と話をしたことがある。  地球人との対談や交渉は、比較的決まったメンバーが行うことになっているようだった。僕が何度か話したのは、頭に黒い触手を生やした声の高い人物である(ちなみに、トリオット星人は全員両性具有であるらしく、明確な男女の境はないという)。  彼――両性具有だが彼と呼んでおくことにする――は。僕がトリオット星人たちの目的について尋ねると、決まってこう返してきたのだった。 『ワタシ達は、素敵なお花見や食事を用意してくれた皆さんに、お礼がしたいだけです。そしてできれば、この地球に理想郷を作りたい。そして、時々観光させていただければそれで充分なのです』  翻訳機ごしの声はあちこちノイズが入っていたが、それでも穏やかで敵意がないのは明白だった。しかし。 『皆さんが優しさや誠意を忘れない限り、ワタシ達は皆さんの味方です。ですが、ワタシ達にも、知られたくないことや秘密にしておきたいことはあります。プライバシーというものです。ワタシ達の宇宙船に近づいたり、秘密を探ろうとするのはやめていただきたいです』  自分達のことについて、根掘り葉掘り聞かれるのは嫌だと。それは確かな、拒絶でもあったのである。
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