天国よりも大切なもの

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 ***  忘れ物はすぐに見つかった。わざと自分で忘れていった上、人間たちに見つからないように川底に落としていったのだから当然と言えば当然なのだが。 「もう、マティもロゼルも嘘ばっかりね!地獄みたいだなんて嘘ばっかり!」  濡れたブレスレットは、魔法で簡単に乾かすことができる。  元地上人の天使たちに愚痴りながら、コルンは真っ白なワンピースをひるがえして走り回った。長い金色の髪が揺れる。神様の証であるティアラを落とさないように気を付けながら、コルンはうきうきで花畑を駆けたのだった。  降り立ったのは、ジャジルア王国という国の花畑だった。川沿いにどこまでも、黄色やピンク、水色、紫といった色とりどりの花が咲いている。天国の花は白が多くて味気ないが、此処はあらゆる色に溢れている。かぐわしい匂いが周囲に満ちていく。それだけで、コルンの気持ちを高揚させるには充分だったのだ。 「地上の方が、よっぽど天国みたいなものじゃない!サイッコー!」  花畑は、どうやら町と町を結ぶ道中にあるらしい。真ん中には黄色い煉瓦の道があり、それが町の方へと続いているようだ。煉瓦の道を北に行くと町があり、南には深い森が見える。町の方へ行ってみようかと視線を向けた時、こちらを見ているひとりの少年の姿に気づいたのだった。  茶色の髪、青い目。ジャジルア王国の人間にしては珍しい瞳の色だ。十三歳くらいの可愛らしい顔立ちの少年は、ぽかーんとした顔でコルンの方を見つめている。 「ねえ!」  自分が御忍びで地上に降りてきていることを忘れ、コルンは少年に声をかけたのだった。 「貴方、あの町の人?何をしているの?」 「え、え」  少年はその細い腕に不釣合いな大きな籠を持っていた。北から歩いてきたということは、今から南の森に向かうところだったのではなかろうか。ちなみに、南の森を超えると次の町がある、ということは空から見ていたのでコルンも知るところである。 「その、森にベリーを取りに。ジャムの材料になるんだ。ジャムを作って、母さんのお店で売っているから」 「まあ!私、自分でジャムを作ったこともないし、木の実を取ったこともないの!一緒に行ってもいい?」 「い、いいけど」  きっとお人よしな性格なのだろう。突然現れた年上の少女にびっくりしつつも、彼は頷いてくれたのだった。
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