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いや別に原因なんかはどうでもいい。
ともあれ私は異世界転生したのかな。手足と鞄を見ると間違いなく私のもので、そうすると異世界転移か。いや、ひょっとしたら地球世界のどっかの草原かも知れない。異世界転移なんてあるはずがない。
そう思って空を見上げたら、月が2つある。うん、異世界。畜生。
問題はどうやって戻るか、だ。黒音様に会わないという選択肢は、私の人生の中で欠片もない。少なくとも、何としても握手タイムまでに帰らないといけない。
えっと、多分戻れるはずだ。
なぜなら私は死んでいない。
……死んでないよな、多分。だってぶつかった記憶ないもん、暴走トラック。
体は傷んでないし服も傷んでないし、トラックが突っ込んで来た記憶はあるけど体に衝撃が走った記憶はない。そうすると暴走トラックとは接触していなくて、私の体を構成する全素粒子がトンネル効果でも引き起こしたのかあるいは魔術魔法といった不可思議な力とか宗教的神の全知全能の仕業かなにやらわからないけれども、地球世界からスリップまたはトリップしてこの世界、仮に世界Xとするとして、ここに移行や移動でもしたのではないだろうか、というのが立てられる仮説、なのかもしれない。
頭の中が酷く混乱していることは否めない。
ええと、仮に本当に接触したか死んだかの衝撃で異世界に転移したのかもしれないけれど、その場合はズタボロの死体で転移しているはずなので? 少なくとも服は汚れているはずだと思う。黒い服だからって、洗いたての香りはしないと思うんだ。
その場合、私を接触直前の状態に修復させて転移させる必要があるわけで、そんな必然性は何もない、はず。いやそもそも異世界転移に必然性があるのかわからないけれども、ただでさえありえないのにそこで一手間加えて時間を巻き戻す意味なんてますますわからない。
いやだから考えないといけないのはそうじゃなくて。
つまり死なないまま地球からこの世界Xに来たとするならば、死なないまま地球に再転移することも不可能ではないと思うのだ。理屈としては。
そうするとやっぱり地球に戻るために解析すべきは、転移の引き金となった『暴走トラック』がもたらした転移効果を及ぼしたもの、或いは力とは一体何か、つまり転移の原因。そして地球に戻るためには、この世界Xと地球世界との座標軸の差が必要だと思う、つまり移動距離。
まずはこの世界について知らないと話にならない。
私の敬愛する黒音様と握手するために!
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