第5話 そのスポ根ちょっと待て!

1/1
前へ
/8ページ
次へ

第5話 そのスポ根ちょっと待て!

「ククク、小宮山(こみやま) イラ。今日はスポ根を書いてみたぞ。これで球技大会で恥をかくがいい」 「いいから、ビーチバレーの練習するぞ」  オレは、荘田(しょうだ) セツナを市民プールに誘った。コイツが、バレーのトスが怖くてできんというので、練習に付き合ってやっている。  最初に頼まれたときは、「付き合って」とだけ言われたから、何事かとドギマギしたが。思わず「はい」と答えてしまったじゃないか。  気合の入った水着だな。球技大会はスク水なのに。  球技大会は、臨海学校で行われるちょっとした体育祭だ。ウチの学校は、春に体育祭、秋頃にビーチバレー大会をする。球技大会でもいいが、熱中症対策の一環で、水場が近いビーチバレーを採用している。学校が海に近いこともあって、保護者も見に来やすい。 「読まないのか?」 「練習終わってからな」  ビーチボールは、ややバレーボールより大きかった。しかしセツナの場合、ボールに慣れる必要がある。 「海が近いから、そっちでやるのもありじゃん」 「知り合いが多いから」  セツナはわざわざ、郊外の寂れた市民プールに誘ってきた。人に特訓を見られるのが恥ずかしいのか。だったら、ライバルであるオレに見られるのが一番恥ずいような。  まあ、ここのフードはめっちゃおいしいのだが。 「はあはあ、んっ」 「よし、いい動きだ」 『ボールの方向へ行っては、戻ってくる』という練習を、ひたすら続ける。球技も基本、軸足が大事だ。球があっちこっちに飛ぶだけに余計、自分の定位置を決めておく必要がある。自分で軸を決めておいて、どこへ行けばいいかヤマを張るのだ。  本格的な練習ではない。ボールに慣れさせれば、セツナだって動けるはず。球技やチームワークが苦手なだけで、セツナは運動音痴ではないからな。 「はやく、して」  オレに、小説を読んでほしいんだな? 「終わってからな」  何度もトスとレシーブを練習して、お互いに汗だくになる。 「はあ、はあ。はやく」 【待てい!】   「卑猥!」  別の想像が膨らんでしまう! 「だって、読んでくれないんだもん」  酸素を吸いながら、セツナはバテている。 「わかったっての」  フードコートへ移動し、目玉焼き入りの焼きそばを二人前頼んだ。ドリンクはメロンソーダをチョイスする。  ぶっちゃけ、スポ根モノは苦手だ。  勝者と敗者がいる内容は、ドラマ性が強い。ただ勝利を描くだけではドラマが薄くなる。敗者にのしかかっていた背景があると、負けも美しくなる。  さて。セツナは、どんなドラマを描いたんだ?   ――わたしは、ホットヨガで頂点を目指す! 【待てい!】 「ホットヨガのどこに勝負要素が!?」 「どれだけ減量できるかの競技」  資格を取るとかなら別だが。 「ダイエットの量で競うの!?」  たしかに、バラエティ番組ではそういう企画があるが、競技性は正直薄い。どちらかというと、誘惑に負けて食べてしまうシーンが見たかったり。 ――ああ、串焼き美味しそう。あんなのでビール飲めたら! 【待てい!】 「未成年!」  主人公、一四歳じゃねえか! 「ノンアルだからワンチャン」 「ムリ! もうビールって言ってるからムリ!」 「わたし、たまに家でノンアル飲んでる。すると、頭が活性化して、筆が進むのだ。翌日、できの悪さに後悔するが」 「酒を飲んだテンションで書いてるからだろうが!」  コイツのファンキー文体は、ノンアルコールビールのせいだったのか。 「お前はいいのか? ダイエットとか、気にしなくていい体型をしているが」 「ちょ、小宮山イラ、セクハラ」 「おっと。すまん」 「アイスで、許してやる」  セツナは、アイスを奢ったら機嫌を直した。 「じゃあ、ビーチバレーの特訓続けるぞ」  へとへとになりながらも、セツナは練習についていく。  午後もみっちり特訓したためか、オレたちはビーチボール大会で三位となった。 「勝ったから、ノンアルビールひとケース!」 【待てい!】 「飲み過ぎ!」 「えーっ。もうポチってしまった」  セツナがスマホを見せてくる。 【待てい!】  これ、ノンアルじゃなくて子ども用ビールじゃねえか。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加