第1話 そのファンタジーちょっと待て!

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第1話 そのファンタジーちょっと待て!

「ククク、小宮山(こみやま) イラ。今日こそ私の小説をコミカライズしてもらうぞ」  黒髪ロングの美少女が、オレの隣まで机を寄せてくる。  荘田(しょうだ) セツナが、また小説を書いてきた。 「またかよ。お前の小説ツッコミどころ満載なんだけど」 「今日は、自信作だから」 「BL要素なし?」  以前はモフモフファンタジーと思わせて、めちゃBLだったからな。ツッコミが止まらなかった。 「色々なモノを突っ込まれてご満悦だったぞ」 【待てい!】  オレは、音声アプリを起動させる。キレの良いオッサンの声が、スマホから流れた。 「出た。【待てい】ボタン」  TV番組でツッコミを入れる前に押す、VTRを一時停止するためのボタンだ。番組が面白がって、アプリにして売り出したのである。 「女子が言うセリフじゃないぞ」  荘田セツナは、「黙っていれば美少女」と言われるくらい残念だ。  見た目こそ、おしとやかな黒髪ロングな文学少女である。  成績も申し分ない。  しかし実態は、ただのエンタメラノベ大好きバカ少女だ。自分でも頭の悪いラノベを書いているから、始末が悪い。  オレは部活でマンガを描いている。   荘田セツナから、「お前の絵が私の絵にマッチングしてる」と、よく挿絵を頼まれるのだ。  事実、一年の頃は彼女の小説に挿絵を書き、学内でそこそこヒットした。  要求はエスカレートし、コミカライズまで頼んでくる始末である。 「大丈夫。私の中で、もうBLブームは去ったから」 「去ったんかい。だったら、はよ見せろ」  メモ帳を起動し、セツナが小説を読み上げはじめた。 「相変わらず、メモアプリで書いてるんだな」 「でないと集中できない。授業中は」 【待てい!】  また、オレはアプリを起動させる。 「授業中に書くな」 「いやいや、授業中が一番はかどるってわかったんだって。授業の間は、私のゴールデンタイムだから!」 【待てい!】  「ゴールデンタイムの使い方、間違ってる」  ビジネス書用語で、起床後朝の三時間を「脳のゴールデンタイム」という。  だが、セツナはその貴重な時間を執筆に当てているのだ。 「ちゃんと予習はしてきてるから、平気だって」 「わかるけど、授業態度が悪い」 「あんたにそれを言われるとは思わなかった」 「いいから続けろや」  これ以上ツッコんでいたら、本題に入れない。基調な放課後がムダになってしまう。 「読むぞ」 ――転生してきたオレは、異世界に降り立った」  フム。異世界転生モノなんだな。 ――ちなみに、前世はいわゆる『女王様の豚』である」 【待てい!】 「な? これからいいところなのに」 「冒頭でもう感情移入拒否!」   いわゆる「性的な豚」から転生とか、過激にも程がある。 「社畜って、色々と病んでるだろ? こういった趣味はあると思うんだ」 「お前の基準が病んでる」  まあいい、続きを読んでもらおうか。 ――この性癖が受け入れられず、オレは城を追われた。なにが間違っていたのだろう?  なにもかも間違っているが、いいだろう。 ――冒険者ギルドでは、遊び人を選択。前世で社畜だったからな。ここでは自由に生きよう。    わからんでもない。といっても、相当病んでるなコイツ。  コイツの旅の目的はなんだ?  遊び人と言っていたから、戦闘向きじゃないだろう。  農業や建築、鍛冶スキルなどを駆使したクラフト系チートか?  それなら楽しそうだ。     ――よし、ゼロ装備でモンスターに踏んでもらうぞ。   【待てい!】  まさかの戦闘パターンか。 「死ぬ。また来世からやり直しになるぞ」 「それもアリかも知れない」 【待てい!】 「お前の発言はおかしい」  犬のフンレベルで踏んでもらえなさそう。ってか、実際そうじゃねえか! 全然戦闘が始まらない。 「こっからどう続くんだ?」 「続かない」  結局見どころがないまま、エタった。つまり、話が思いつかなかったために未完成らしい。 「それで自信作とはよく言えたな」 「マンガにしたら映えると思ったんだ」 「ないない」  ストーリーのない話とか、作りづらいんだが。 「お前、どこで取材してきたんだ?」  取材と言っても、誰かのインタビューとか現地レポートを差さない。ネットで情報収集も取材と言える。 「女王様のグチ動画」 【待てい!】 「取材先から間違ってた」  小説ってのは方向性で、王道にすべきか文芸向きかわかるもんだ。が、方向性がそもそも間違っているってのは初めて読んだ気がする。  バトルにするなら戦闘向きなヒロインを出すとか、考えてみてはとアドバイスしてみる。 「なるほどー。勉強になるなー。やっぱり、イラに頼んでよかった」  セツナが身体を寄せてきた。距離が近い。いい匂いがする。 「たとえば、どういうキャラがいいんだ?」 「姫騎士とかあるじゃん。お姫様だけど男勝りで騎士業もやってるとか、騎士の家系だけどお姫様をやらされててお忍びで戦ってるとか」  オレは思わず、勇ましいドレススーツ姿のセツナを想像してしまった。かっこいいぞ。 「わかった! その子に女王様をしてもらうのか!」 【待てい!】  オレはツッコミボタンを押す。 「ガチでそうなりそうでヤダ」
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