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「それでどうなったんだ。会ったのか?」
「まだ返事してない。そんな簡単に決められるかよ」
月曜日の放課後、教室の一番後ろの席で、草太は頭をかきむしった。
「なんだ。つまらん。変な意地はってないで、せっかくだから会うって言えばよかったのに」
前の席に後ろ向きに座っているのは、柊蒼一。中学からの腐れ縁の親友だ。草太より、頭二つ分背も高い、バスケットボール部の主将だ。前髪長めの、クールそうな外見が女子に人気があった。
「うるせぇな。他人事だと思って……」
「俺ならすぐに会うけどな。だって自分を産んでくれた人だろ。それに、どうして家を出ていったのかも聞けるじゃないか。はじめからゲイとわかってて結婚したんなら、何も家をでる必要もなかったのに……」
「それは俺も、何でかなって思うけど。お前、言いづらいことはっきり言うよなぁ」
「ヒイラギくーん、なんの話してるの〜」
「深刻そう〜〜。ねぇ、それよりカラオケいかない? 今日、部活休みなんでしょ?」
「やだね。俺の休みは全部、草太のために使うって決めてるからな。なんでお前等のひまつぶしにつきあわされなきゃなんないんだよ」
「お、おいっ! 蒼一っ! お前、なんてこと言ってんだよ。ごめん、こいつ、口だけは悪いけど、本気じゃないから」
蒼一の代わりに頭を下げる草太に、クラスでも派手な部類に入る女の子たちは、逆にけらけらと明るく笑った。
「あー、いーの、いーの、橘くんがいるのに声かけたこっちが悪いから」
「そーいうこと! じゃまたね〜〜おふたりさーん」
思ったより物分かりのいい子たちだった。あれで化粧が濃くなかったら、好みかもしれない。
「でもこの際、覚悟決めて会ったほーがいいと思うぞ、俺は」
どこにもよる気にならず、帰り道をダラダラと蒼一と歩く。
「うーん。まぁそーなんだけど、踏ん切りがな」
いつかは会わねばならないと思ってるし、会いたいとも思っている。問いつめたいこともたくさんあるし。
「踏ん切りがつくよーにしてやろうか」
「え?」
「実は俺も、お前に秘密にしてたことが一個だけあるんだ」
近さだけで決めたから、学校から徒歩20分ほどのところに草太の家はある。ちょうど家の屋根が見えてきたところで、蒼一が足を止めた。
「実は俺、お前のことが好きだったんだよね」
さらっと、なんの前触れもなく言われて、草太の目が見開いたまま固まった。
衝撃は、深呼吸三回くらいできる時間が過ぎてからきた。
「ん? え? はぁー??????」
「期待通りの反応だな」
くすくすと蒼一は笑っている。それでも心なしか目元が赤く染まっている。
まじか。
いや、マジなやつだこれ。
嘘ではない。
こんな時に嘘をつくようなやつではないと、誰よりも草太が知っている。
「これで、踏ん切りついたか。驚き三重奏で、これ以上、何があっても平気だろ」
「蒼一……」
ぽかんとしたまま、草太は言った。
「お前、やっぱ天才だな」
その言葉に、ブフッと蒼一は噴き出した。閑静な住宅街に響く笑い声をあげた後、バスケ部のエースは、うつむいたままぽつりと言った。
「だから好きだよ、草太」
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