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「プリュスクートゥセビィ、アリー。」
くそったれな神様、ちゃんと聞いたか?真実の恋をよこせって言ってんのに、友情に極振りしやがってざけんなよ、いや感謝はしなくもないがあんまりだろ終わらせるために会わせるなんざ悪魔か!許さん!ん?あれ?アリエル?なに?缶詰が欲しいの?
後ろに流していた赤髪がアリエルのこめかみから前へと流れ、伏せた睫毛に影をつくっていく。革手袋の両手が缶詰を包みそのまま膝を落としたアリエルから、はいよろこんで、と日本語の幻聴が聞こえた俺は末期だ。幻聴でもいいぜここは今から魔方陣の上だ。今決めた!取り消しは不可だ!
真っ正面の抹茶色の潤んだ瞳には俺がいる。ほらみろ!俺はアリエルの中にいるじゃねーか!泣くなよアリー、なんでだ、近いのに見えねえ、ピントが合わねぇ、滲んじまう。ドンと右肩と腹にゴッツい衝撃を食らわせアリエルは俺にもたれた。アリエルの手にした腹パン武器缶詰を回収しポケットに投げ込むと両腕で背中まで覆うよう抱きしめた。アリーの銀色を俺の黒で隠して、神様だって悪戯できないくらいの強制契約をするんだ。アリエルを立ち上がらせ腰に腕を回す。ダウンコートが邪魔で仕方ない。恋人なんだぜ。暖かさを分け合ったりしたいっての。
「ウィって言ったかんなー。」
手袋を外し、アリエルの赤髪に指をくぐらせる。絡みつく柔らかな髪になんでかまた視界が滲んだ。キラキラが乱反射してよく見えない。だから先を歩くさっちゃんの紺色のコートだけが頼りだ。
「サキはベツレヘムの星のようだ。」
ぽそりと呟いたアリエルの南部訛りの仏語も聞き取れた。別れてから学んだ言語は無駄にはならなかった。だけど、それにどう応えていいかわからん。俺を見つめ口元を綻ばせたアリエルが肩にもたれる。離れてからの8年の月日をどこから語ろうか。アリエルはこの8年をどう過ごしてきたんだろうか。
「アリー。」
良い日も悪い日もふとした瞬間に呼んでしまっていた。今は隣に居る。名を呼ぶ。なんだい?と返ってくる声に、胸に止めていた言葉はじわじわと溢れて零れていった。
「アリー、アリエル、アリー、大好きだったんだ、最初っからアリーしか好きじゃなかった。、、、アリエル?」
沈黙したままのアリエルを覗き込む。真っ赤な唇は弧を描き上目に俺を見返した。
「プッサン、ノン、静かにイイコだから?」
抹茶色の瞳が俺を捕える。饒舌に愛を語るその瞳にいつだって焦がされていた。世界がふたりだけのものだと錯覚させる。意気地無しの俺にアリエルは目を伏せ顎をあげ誘う。賛美歌が聞こえる。どこかで鐘が鳴っている。ツリーのてっぺんのベルツレムが昼でもなお燦めき、希ったアリエルを輝かせる。俺は世界に永遠を誓って赤い唇に口吻た。ガチガチに震えたのも鼻水と涙でぐちゃぐちゃなのも全部この寒さのせいだ。
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