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きらきらぼし
迷子のさっちゃんは、ばかみたいな大きさのクリスマスツリーの前にいた。公金で飾り立てられたクリスマスツリーは雲間の日の光を反射させ輝いている。それを従えるさっちゃんはいつものようにキラキラと眩しかった。迎えに来た俺に駆けてくる体を受け止めるべく腕を広げたが、さっちゃんは目一杯に開いた両腕でがしりと掴み両手握手した。
「ぶっ、ふ、ははっ、そうきたかさっちゃん!久しぶりー!」
「はぁちゃん!」
ぶんぶんと上げ下げする腕の勢いに、蹈鞴を踏む足がヘンなステップで踊り出しそうになる。重心を俺に任せ傾いた体勢でさっちゃんはツリーに顔ごと視線を投げた。
「彼女が連れてきてくれたのだよ!」
「ふっ、捨てる神あれば拾う神あり、だ、ぜ、、え、」
向けた視線の先。ツリーの前に立っている銀色のダウンコートの人物にキラキラと光が集まる。輝く赤髪の下、彫像のような滑らかな褐色の肌と鮮やかな赤い唇に心臓が止まる。うわぁっ、と後ろからさっちゃんの悲鳴が聞こえた気がした。後ろで、だ。俺はツリーの前で銀色を捕まえて腕の中に閉じ込めていた。たぶん瞬間移動したね。魔方陣とか書いてらんねーわ。走った記憶もない。気がついたら捕まえていた。
さっちゃんは俺の初恋だった。再会してそれが憧憬と執着だったと気がついて俺の未練がましい初恋は終わった。
アリエルは俺の真実の恋だった。別れてずいぶん経ってからそれに気がついて、それからずっと俺は、魔女のさっちゃんの甥である明智隼人は未来視する魔術師として来たるべく運命をシミュレーションし続けていた。
まさに!今だ!!たが!!
「やばい!さっちゃん!指輪も薔薇もない!クソだ俺!!どうしよう!?」
「リング、、あっ、缶詰があるよ!プルタブリングどぉ?」
「のった!!」
何万回と妄想したプロポーズだ。雪の舞うクリスマスツリーの前なんてベタすぎなシュチュの俺に乱れはない。完璧だ。マヌケな缶詰のリングだってパッケージ見ろよ、見たかよ神様、俺とアリエルがしょっちゅう食ってた豆の煮たやつじゃねーか。なんだよそれもうホロリと泣くだろ。完璧じゃねーか俺。
「スエテ!ウィ!!アリー!ジュテーム!!」
何万回繰り返して夢みた瞬間だ。震えるな俺。放漫に不遜に当然だろ?って表情で彼女を見ろ俺。自信満々なイイオトコだろ、なぁ、アリエルなんで返事してくれないんだ?なんだ、やっぱあの時フラれてたか俺、単にイタいヤツじゃねーかいっそ遺体だ殺してくれいやもうすでに公開処刑の真っ最中だわ、言い残すこと?あるに決まってんだろ!!
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