プロローグ

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 ボサボサ頭の男は、この世界に馴染んでいた。ゴワゴワしたチュニックに袖を通し、ブカブカのズボンを腰紐でぐっと縛る。 「んで、何しに来たんだよ」 「様子を見に来たのさ。オイラが蘇らせた人間はどんな調子かなってね」 「見ての通り元気だ。じゃあな」 「まあまあ、そんな事言わずにさ。オイラ暇なんだよ」  この辺りでは珍しい二階建ての一軒家。ギシギシと音のする階段を下りていく男の後を、緑色の悪魔が追いかけていた。 「俺は暇じゃねえ。ったく、どうせだったら金持ちに転生させろよな」 「この前お金あげたじゃないか。それにこの家だって、オイラの金で買ったんだろう?」 「足りねえよ。ちまちました犯罪じゃ善玉の転生者は見向きもしねえしよ。はあ、いっそのことお前がこの辺で暴れまわって呼んで来いよ」 「オイラは武闘派じゃないし、この国の王様と取引して人間界に留まってるんだ。それで暴れたら魔界に送り返されちゃうだろ」 「分かった分かった。ほれ、金寄こせ。どうせため込んでるんだろ?」 「嫌だね。いつからオイラはパトロンになったのさ。頼むから頑張っておくれよ。オイラがせっせと金をバラまいても善玉君たちがすぐに嗅ぎつけて潰してしまうんだ。これじゃ、カオスには程遠いよ」 「王様に戦争するように言えばいいじゃねえか」 「んー、善玉の転生者が強すぎるんだよねー。このままだと、前の戦争で奪われた領土も取返しそうな勢いだし。だからまずは、あいつらを減らしてくれないと困るんだよ」  広い部屋にあるのは背の低い机とソファーだけ。新居を買ったのはいいが、家具に回す金は無かったのだ。どかりと腰を落ち着けると、机に置いてあった紙巻たばこを咥えマッチを擦る。 「ぷふあー」 「ごほごほ。よく悪魔の顔にたばこの煙を吹きかけられるね」 「ぷふー。いいか、よく聞け。俺は転生者が欲しいんだ。それも俺の考えに賛同するやばい奴らなら最高だが、それが無理なら死体でいい。そいつらが集まらない限り、俺の能力は向上しない。向上しないと、俺の考えやお前の計画も中折れしちまうんだよ。分かるか?」 「はい」 「だから、ぐちぐち文句言ってねえで転生者を探し出すか、転生者の死体を持ってこい」 「うーん、肩入れしすぎなんだよなー。ところで君、能力は増えたのかい?せっかく魔王から貰った能力があるんだから、目利きしたんだろう?」 「ああ、増えた。いろいろな」 「おお!やったね。ほら、オイラの能力だってバカにならないだろう?」 「俺は能力をバカにしたことはねえ。お前がザコだって言ってるんだ」 「悪魔をザコ呼ばわりするのは君だけだよ。で、どんな能力何だい?見せてごらんよ」 「うるせえ、見たいなら100万おいていけ」 「嫌だね。君の能力の生みの親、いわば父親だよ?いつまで親のすねをかじる気なんだい!?」 「黙れゴブリン」 「あ、それは絶対言ってはいけないヤツだぞ!オイラはマモン!そんな低級の魔物と一緒にしないで欲しいな」  何も無い部屋で悪魔と語り合う男は転生者である。転生者とは死んだ人間に全く別の魂が入り込み、生き返った者の事である。彼らは、強大な力を秘めている事が多く、この国で英雄と呼ばれる4騎士達も転生者である事は有名な話。  しかし、ここで悪魔と戯れる男、虎壱實(とらいちざね)龍瑯(たつろう)は英雄とは程遠い転生者であった。
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