百年に一度だけの奇跡

9/9
前へ
/9ページ
次へ
秘仏の正体であるが…… 仏教における「(くう)」そのもの。鎌倉時代に寺が建立された時より厨子の中はずっと空っぽである。 製作者の仏師も数多の仏像を()るうちに「自らを拠り所にしなさい」「神は自らの心の中にいる」と仏陀が仰っていたように悟りを拓き、偶像である仏像に意味がないと気が付き、厨子のみを組み立てて中身は何もない空っぽの伽藍堂たる(くう)とすることで仏像を塑造するという現代アートのような結論に至ったのであった。 それを本尊とする宗派を立ち上げた初代の「住職・解禁」であるが、仏師に騙されたと考えたのか、それとも「空」たる仏像を見出したのかは今は知る由もない。 八百年の間、歴代の「住職・解禁」は解禁日の度に厨子の中を見てどのような行動を取ったかは今は知る由もない。ただ、八百年も習慣が続いていたことから想像するに姑息的に百年を誤魔化すことを続けていたのは間違いないだろう。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加