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まず国王が最初に不審な死を遂げた。次々と王族や権力者が死んでいく中、この女が絶対に怪しいと誰もが思った。しかし証拠がなく、女の舌戦に勝てる者などいない。最終的に教会頂点の法王が問い詰めたところ、女はあっさりと認めたのだ。
「私が殺したんだけど、それがどうかしたの」
彼女は非常に頭が良い女だった。そして誰も太刀打ちできないほどにあらゆることが強かった。剣術体術はもちろん、政治的手腕は誰も言い返せないほど口がうまい。いつの間にか個人で外交を行っておりバックについている国々が強大だった。
気がついたら勝手に法律が変わっていて、気がついたら勝手に税制が変わっている。金を持っている者は財産を全て没収され、身分関係なく労働が強いられた。
それに関しても彼女はあっさりと言った。
「身分があるから自分たちは苦しいという民衆の声を聞いて、叶えてあげただけじゃない。金持ちと貧乏がいるのなら、みんな貧乏になればいい。働く者と働かない者がいるなら、全員等しく働けばいいだけでしょ。私は民の願いを叶えただけよ」
女は笑う。楽しそうに。
「全ての民を平等にしたのよ、私は。なんて素晴らしいのでしょう」
相手の言葉を逆手にとり、一方的に己の都合の良いように全てを支配してきた女。謀反を起こそうにも騎士団の家族はすべて人質に取られ、兵力を全てもぎ取られていた。誰もが彼女を恐れ命令に逆らうことができない。それでいて反乱因子を殺した者には高額な報奨金が出る仕組みを作った。
恐怖に支配されていても、金の為なら人は言うことを聞く。それにそういう法律があるのだから、自分は悪くないという人間の心理を見事に操ったものだった。
訓練を受けた騎士に民衆が敵うはずもない。ありとあらゆる手段を使った恐怖政治が強いられた。
それでも何とか女を捕まえ断罪することにこぎつけた。王族を全員処刑したのだ、だったら王家に入る女も処刑がふさわしいと嘲笑を込めて皆が叫べば女は。
「あら、婚礼の儀をしていなくても婚礼済みと認めてくれるの? ありがとう」
ニコニコ笑いながら言う女に誰もが震えた。教会の者たちも疲れ切っていてもはや神に祈る者はいない。
剣を向けられて腕を掴まれていても、女は怒ることも暴れることもなく、いつも通り楽しそうに笑いながら言った。
「あなたたちと違って、私は国を背負っているのよ。私に危害を加えるのは、この国に危害を加えるという事。それをちゃんとわかっているのかしら?」
一体どの口が国を背負っているなどと言うのか。兵士も、教会の者も、民衆も、あらゆる人間が怒り狂ったという。反対意見などあるはずもなく、女の処刑を望む声がそこら中から聞こえてあっという間に処刑日が決まった。
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