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今日は国にとって、とても大切な日。女を処刑する時がついに来たのだ。民衆は沸き立った。国中の人間が集まっているのではないかというくらい中央広場には人が殺到した。
殺せ、早く殺せ。
そんな大合唱が隣の国まで届いたという逸話まで残っている。
中央にある断頭台。そこに女が連れてこられた。疲れきった顔の司祭が形だけの祈りの言葉を捧げる。一緒に来ていた執事の男は逃げるようにその場を走り去った。
死者が着る服である白い服を着た女はニコニコと笑っていた。その不気味さに司祭の顔が引き攣る。これから死ぬというのに、なぜそんなに楽しそうなのか。
「こんなにも人が集まっているなんて。私はどれだけ民に愛されているのかしら」
この期に及んでまだそんなことを言っている。頭がおかしくて本当に理解していないのか、それともわかって言っているのか……彼女の考えている事は誰一人理解できない。
女を断頭台に固定しようとした時、女は処刑人に向かってこんなことを言った。
「上向きにしてちょうだい」
その言葉に、処刑人の顔も引き攣る。自分の首を落とすための刃物が落ちてくるところを見なければいけないというのに。
「な、なぜ」
「どうして地べたを見なければいけないの、この私が。無礼の極みだわ」
「そーー」
「誰が自分の意見を口にしていいと言ったの」
背筋が凍るような冷たい咎める声。彼女に一度でも関わったことがある人間は、たとえどんな者であっても彼女の恐怖政治によって心を支配されてしまっている。その声に逆らえる者はおらず、処刑人は体を震わせた。言われたとおり上向きに固定をすると、民衆たちも何事かとざわつき始める。
何をしているんだあれは
さ、さすがに嫌がらせでしょ?
いや、でも。あの女、笑ってる
頭がおかしいのか、死の瞬間を見たいなんて
あの女の考えてる事はやはり理解できない
そんな声で辺りは騒然となる。
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