世界を統一した女王

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 もうこんな事はさっさと終わらせてしまいたいと慌てた様子で処刑人は処刑の準備を始めた。処刑人が怯えているのは民衆の目でも見てわかった。  処刑人が「刑を執行する」の「刑を」と言った時それを遮る形で女が叫んだ。 「今日は記念日になるわ、なんて素晴らしい日なの。私はこの国を、みんな愛しています!」  上品に笑う女。その言葉に民衆も静まり返る。頭がおかしいとしか思えない。  そして処刑は執行された。刃が勢いよく落ちてきて首が切り落とされる。民衆の歓喜の声は、すぐに静まり返った。  頭が落ちた後のほんの数秒間、女の頭は笑っていたのだ。あの女化け物だと言う者もいれば、人間の首を切り落としてすぐはまだ意識があるのではないかという意見も出て大混乱となった。  そして女が処刑された瞬間、突如他国から大軍が攻め寄せる。国の守備が崩壊している中全国民が処刑鑑賞などしていたのであっさり乗っ取られた。  その国では王族や極悪人の公開処刑が当たり前だったが、周囲の国では処刑というものはとっくに廃れていた。罪を犯した者は償うことこそが最大の刑であり、死して償うなどありえない。まして人が死ぬところを楽しんで見るなど人間のやることではないと非難が集まった。女が多くの国々と交流していた為、女を庇い国民を非難する声が高まったのだ。  こんな非道な国など、あってはならない。様々な国がそう声を上げた。    その日は確かに記念日となった。女が処刑されたその日、三百年以上続いた国は隣国の植民地となり実質消滅したのである。  私は国を背負っているのよ。  その言葉の意味するところに気づいたのは、その国の者たちが何もかも全て失った時だった。家も、富も、人も、故郷も。  皆、等しく何もなくなった。  後にこの女王が処刑された日は公開処刑という野蛮な行為を全世界に知らしめ、すべての国で改めて処刑を禁止する協定が結ばれた。人が正しい道を歩むことができる喜ばしい日として語り継がれた。 「よい子の皆さん、今日は何の日か知っていますか」  今日は町全体が厳かな雰囲気となっている。初等部に入ったばかりの幼い子供たちは全員真っ白な服を着てこれから広場に向かうところだ。 「はい先生。今日は偉大なるセラフィ様が天に召された日。お祈りを捧げる日です」 「よくできました、その通りです。格差や差別をなくそうと奔走していた王妃様を公開処刑という非道な手段で命を奪った愚かな者たち。その結果国は滅びました、当然のことです。しかし世界は命の大切さを後の時代の人たちに教えるためにセラフィ様を『世界の王妃』とし、今日を記念日にしました。大変素晴らしいことです。皆さんも今日は生きている事に感謝の気持ちを込めてお祈りをしましょうね」
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