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最終話
ユウは引っ越して行った。
別れ際に最後強く抱きしめた。ユウの家族が見てた、兄さんの視線がすごかったけど、もう最後だからそんなの気にしてられなかった。
ユウは僕の胸の中で泣いてた。丁度いい所にオデコがあったので僕はオデコにキスをした。初めて自分の方からしたキスだった。
僕の方からキスしてきたのでユウが驚いて、そのあとちょっと微笑んだ。勇気を出した甲斐があった。
僕らの別れ際の言葉はさよならでもありがとうでもなかった。そんな大人みたいなセリフは出てこなかった。車の窓から顔を出してユウはスゥっと息を吸い込むと大声で
「天馬くーーーーーん!!!好きーーーーーーー!!!!」と思い切り叫んだ。こんなに大きな声を出したユウは初めて見た。
僕も思い切り
「僕もーー!!!好きだーーーーー!!!」と叫んでた。涙を堪えながらだったから声が震えてた。
ユウを乗せた車はすぐに見えなくなった。僕はその場から2、3歩動くとフラフラっと道の脇のレンガ作りの壁に寄りかかってズルズルとしゃがみ込み膝を抱えたまま10分くらい動けないでいた。
それから5年後
僕は無職だった。高校時代に麻雀にハマり自分は麻雀を仕事にしたいと思って進学せずに雀荘に就職したが、やりたかった雀荘での仕事もオーナーの考えに1ミリも同意出来ないのが辛すぎて半年もしないで辞めていた。 次はどうするかとボンヤリ考えながら池袋の喫茶店でナポリタンを食べていたらユウを見かけた。
あちらも見つけてくれて近寄ってきたが僕は嬉しすぎたことや突然のことに動揺してしまい何を喋ったかわからない。
ユウは忙しそうだったので時間もなかった。連絡先交換くらいしておくんだったとその時すごく後悔して、その日は只今無職真っ最中のくせにすぐに適当な名刺を作成した。麻雀真剣師とかなんとか。本当に適当な名刺だった。もし次に会った時サッと出せればなんでもいいと思った。
この喫茶店はユウが利用するのかと知ってバイト探しをしてた僕はそんな理由からそこで働いた。長くは続かなかったけど。だってそんな簡単に会える訳ないから。あとで冷静になった時自分はバカなことしてるなと思って辞めた。もちろんそこで働いている間にユウに会えるなんてことは起きてない。
中学生じゃないんだからケータイもあったのに連絡先交換すらしない慌てぶり。ユウに至っては最初から忙しそうに慌ててた。乗り換え電車に間に合わないとか。そりゃ仕方ないわ。
ただ、会えて良かった。変わらず綺麗だったのも嬉しい。それだけで、もう。
僕らはきっと同じくらい好きだった訳じゃないし、今はもっと夢中な何かがあるのかも知れない。
彼女にとっては二度と会えなくてもいいんだろう。実際、僕だって会えるなんて思ってなかったけどそれは何も問題無いことだ。
そんな中で偶然会えただけでも奇跡だし、その姿はまだ美しいままで、ありがとうとしか言葉はない。
もう、逢えないとしても。嬉しかった。
ありがとう、西団地のヒロイン
僕の心の、ヒロイン
了
続きは【財前姉妹】本編で
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