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高校三年の夏
「はぁ 今日も履歴書作成かぁ
折角の最後の夏休みが台無しだよぉ。」
高校三年の 「僕」はエアコンをガンガンにかけながら、履歴書練習をしていた。
過去の僕から今の僕は見えないし、足音も聞こえないらしい。
だからといって物に当たると倒れてしまうので大胆な行動もできない。
忘れたものなんかあるのかよと呟きながらそっと近づいていく。
クシャクシャに丸められた履歴書をそっと開いてみる。
誤字は一つ 払いが決まっていない
そんなことで二十分の苦労が徒労に終わってしまったことを思い出す。
薄茶色に染まった麦茶を美味しそうに飲んでいる。
今思えばこんな薄い麦茶をゴクゴク飲めた自分が不思議だ。
でもなぜだろう。
「僕」の家で何かを忘れたのだろうか?
ガラケーが当時流行りのロックナンバーとともに鳴る。
「もしもし 今? 家だけど。
えー今忙しいんだよね。 優子は優等生だからすぐ終わるから良いよなぁ。
うそうそ 明日なら空いてるかも。
うん? 今日中に終わらせてみせるから期待してくれよな。」
「僕」はワクワクしながらボールペンのスピードを早める。
すると急激に光が現れ視界が奪われる。
再び視界が現れると、ブランコに揺られる「僕」がいた。
流れに任せて高さを増したブランコは落ちれば怪我をしてしまいそうで思わず手を差し伸べそうになる。
その心配は杞憂だったようで、ジーンズにパーカーを身にまとった優子が現れるとブランコを駆け下り、彼女の元へと走る。
ロングヘアーをヘアピンで結び、目はパッチリ、休日に限り唇に薄いピンクの口紅をいつも塗っていた。
「ごめん待った?」
「全然待ってない。
どうした? 急にメールなんて送ってきちゃって。
優子からなんて珍しい。」
「そんなことないよ。
ちょっと洋平に聞きたいことがあるんだけど..
洋平って好きな人いる?」
目の前で昔の 「僕」が運命の質問をされている。
自分の過去のことなのに初めて言われたかのように両頬に手を当てる。
「僕」も返答に困っているようだ。
優子は少し作り笑いをしながらもどこかぎこちない。
「いないよ、いまクラスで一番話しやすいのはやっぱり優子と洋平だね。
昔からの仲ってあるじゃん、もしかして優子って俺のこと狙ってる?」
「はっ? そ そんなわけない!
何勘違いしてんのよ。」
優子は膝を二発蹴る。
でもそれは本当に嫌なのではなく、何処か安堵しているかのようだった。
「優子はどう思ってんの?」
「私も 一番話しやすいと思ってるよ。」
「だから好きだってこと?」
「それとこれとは違う!」
似たような会話のキャッチボールが十分以上続いて、流石の 「僕」も退屈になってきた。
また光が差し込んだ。
気づけばベッドに仰向けになっている今の 「僕」がいた。
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