どうしても最後に伝えたい、ありがとう、と。

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「意識のあるうちに、お話ください」  医者は俺から遠ざかり、代わりに家族が詰め寄ってきた。  うっすらぼやけて見える白い天井。  俺の顔を代わる代わる覗き込む妹、母さん、そして最愛の女性。  嫌でもわかる。  俺の人生が間も無く終わろうとしている事が。  俺の人生…  俺が10歳の時、親父が他界。  以来母さんが女手ひとつで俺と妹を育ててくれた。  忙しい母さんの代わりにと、家事を少しずつ覚えていった。  3つ年下の妹の世話もした。  放課後は友達と遊ぶことなど出来なくなった。  だが、ありがたいことに学校で充分に友達と遊ぶことが出来た。  だから、不満などなく、むしろ自分が誇らしかった。  中学では部活動に所属してもほとんど参加せず、自力で勉強し高校受験を終え、高校では申請してアルバイトも始めた。  これから妹も高校受験、自分も大学受験で色々物入りだった。  節約第一だが、妹には年相応の楽しみはしてもらいたいと、誕生日などのお祝いは欠かさなかった。
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