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彼女の意見は尤もだ。家に帰ってすぐ、私は実践したのだった。
明日の為に必要な書類や道具は、全て今日のうちにバッグに詰めておく。
明日になってから入れるしかない携帯や充電器や弁当の類は、メモに書いてドアノブに貼っておく。これなら嫌でも出かけるときに見るから、忘れる心配はないだろう。
「そうだ。明日やらなくちゃいけないことは、たくさんあるし。忘れそうなことは全部メモに書いて貼っておくことにしよう!」
私は忘れ物も多いけれど、家事を忘れることも少なくない。
明日の弁当をつくること。朝食を作ること。洗濯をすること。夜遅くなるから掃除を多少済ませておくこと。それからテレビの予約に、実家の母への電話に――。
「よし!」
私は思いついた事を全て、べたべたと玄関のドアに貼りつけたのだった。うっかり夜更かしして作っただけあって、かなりの分量である。
「これで絶対、忘れないぞ!」
今度こそ忘れ物を克服できるはず。この時はそう思っていたのだが。
「あああああああああああああ遅刻ううううううううううううううううううううう!」
夜更かしが祟って寝坊した私は、着替えるだけ着替えて準備したのと別のバッグを引っ掴んで玄関から飛び出したのだった。
慌てていたせいで、玄関のドアに貼ってあるメモは一切見なかった。
そう、どれだけメモを作っても、何が何処に書いてあるかを把握できていなければ、そして見なければ何の意味もないわけで。
忘れ物だらけの私が会社についてから、絶叫するまで、あと一時間足らずだった。
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