キラキラ星は教室にいる。

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 ***  学校によって、授業の進め方はまちまちだろう。それこそ授業態度が多少悪かろうがテストで良い点を取ればOKという学校もあるだろうし、それ以外に小テストをやる学校もあるはずだ。  うちの高校は、日本史の場合ミニレポートを提出させる。正確には、授業をまとめたノートを出させるのだ。これは授業中に書いたノートを出してもいいし、あとでまとめ直してもいい。授業内容をきちんとノートに書かせて先生に提出することで、よりしっかり覚えられるようにするという先生なりの配慮であるらしかった。これが、今回の課題である。  もし私が授業中にきっちりレポートを取るような優等生なら、授業中に書いたノートをそのまま出すだけで済んだのだろうが。生憎、日本史の授業中はすっかり寝てしまうことが少なくないような人間である。町田先生の声が安眠に丁度良いゆっくりボイスなのだ。  結局、授業が終わる時に飛び起きて、板書を見て“今日の進み具合”を把握し、教科書にしるしだけつけて終わることが殆どである。毎回同じ轍を踏んでいるのだから学習して起きているべきだと自分でもわかっているのだが、以前死ぬ気で起きていようとして取ったノートはみみずがのたくったようになり、とてもじゃないが提出できる出来にならなかったのだった。  だからもうそれ以来、基本は諦めて後でノートをまとめて提出することにしている。こんなものでも成績に影響するのだから、手を抜くわけにはいかない。中間・実力・期末テストで良い点を取れる自信がないから尚更に。 「んん?」  学校に戻ってきて、靴箱で運動靴を吐き替えた時だった。どこからともなく、歌声のようなものが聴こえてくることに気づいた。女の子とも男の子ともつかない、透明感のある声だ。  階段を登って廊下を歩くにつれ、どうやらそれがうちのクラスの教室からであるらしいということに気づく。1-2と書かれた教室をひょいっと覗く。  そして私は、窓際にキラキラ星が立っていることに気が付いたのだった。 「どうかお願い、たった一言でいい……どんな不格好でも、不器用でも」  聞いたことがない曲だった。オレンジと藍色のグラデーションに染まった窓枠に手をかけて、こちらに背を向けた姿のガクラン姿の少年。  彼のちょっと襟足の長い髪が、窓から吹きこむ風に揺れるたび。その透き通るような歌声が響き渡るたび。  私はそこに、キラキラ星が舞い散っているように見えたのである。まるで空間が切り取られたようだとでもいえばいいのか。よくできた絵画を見ているようだと言えばいいのか。残念ながら私のつたない語彙力では、この胸を打つ光景をうまく表現することができそうになかった。 「下手くそでもいい、君は君でいいって。悪い子でもいいって、言って欲しくて……」
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