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「こんなちっこいのにスプーンついてんの?」
山口推薦の菓子を手に取ると曲げていた体を起こし、目から少し離して横目でその形を確認した。
平林さんの体が離れて行って、ほっとした反面やたらと寂しい。
まあそんな俺の内なる混乱など知る由もない平林さんは、パッケージをあけておもむろに小指をつっこむと、中の白いクリームをすくい上げてパクリと指をくわえた。
は………ははははははhhhh。
反則だ。
指舐めるなんて…それは。
襟足がゾワッと逆立った。
そして平林さんはまだ小指を唇に引っ掛けたまま、焦点の合わない目をして……。
「ん。好きかも」
イエーイ。
レッツパーリー。
ヒャッホー。
もう完全にエロなイメージビデオの世界だ。
ダメっ!!
相手は高3男子なのよっ、徹っ!
あ。忘れてるだろうが、俺は徹だ。しょっぱな名乗ってるからな。
誰に何を言ってんのかもわからなくなったとき、いきなり平林さんが立ち上がった。
唐突なその動きに、俺の魔ジュニアのトンデモ具合がバレてしまったのかと焦ったが、どうやら電話がかかってきたらしい。
「もしもし」
ソファーからの離れ際、やたら大きい女の声が電話口の向こうから響いてきた。 一瞬平林さんは耳が遠いのかと思ったが、電話を耳から少し離した所をみると、やはり相手の声がデカいらしい。
「落ち着け、うるせえ」
放り投げるようなそっけない声だったけど、その顔は柔らかい笑顔を浮かべている。
「ちょいまってて。じゃ山口、これもらってくわな。さんきゅ」
結局ヨーグルッペをもう一個だけポケットに入れ、顔の横に水のペットボトルを挙げて山口と俺に挨拶すると、また携帯を耳にあて、
「こんな時間めずらしいな」
電話の相手にそう言いながら自室の方へ歩いて行った。
ああ。そう聞けば思い当たるふし。平林さんは夕方頃によく電話をしていた気がする。
あれは今かけてきてるのと同じ女からなんだろうか。
……彼女……かな…?
声、デカいな。
平林さんのスペック考えたら彼女がいたっておかしくはないけど…。
魔ジュニアがほんの少ししょんぼりした気がした。
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