平成の忘れ物

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「あのさあ、私がつくった自由研究、あんたに遺産として譲りたいんだわ」 「……はあ」  俺が久々に実家に荷物を取りに来た途端に、姉の幽霊に会った。  影はない。両親は見えない。姉はたしかに死んでいるし、葬式にも出たし墓参りにも行った。つまり幽霊。  その幽霊に、なぜか自由研究を譲り渡されようとしている。 「……姉ちゃんの自由研究なんて、金にならないでしょ」 「ええ、お姉ちゃん悲しい。金になるって大騒ぎだったし」 「なんだよ、金になる自由研究って。うちの家、庶民も庶民、大庶民。時代に取り残された昭和の忘れ形見じゃねえかよ」 「あ、ひどい。ものすっごく風評被害。昭和生まれのお姉ちゃんを傷付けました。責任取ってください」 「……で、なにをくれんだよ」  姉の自由研究なんて大したことがないだろうと高を括っていたものの。  ものすっごく目の端でバタバタされて渋々見に行った先を見て、口をポカンと開けた。 「……金だ」 「ねっ、金でしょ」 「というより、電子マネー全盛期の時代に五円玉ビーズ代わりにした甲を自由研究って、この五円玉どうしたんだよ」 「近所の駄菓子屋さんにひたすら買い物に行って五円玉を貯めた。洗剤で洗ってぴかぴかにしてからワイヤーで繋げた。すごい? すごい?」 「いや、すごいっちゃすごいけどさあ……今って神社ですら五円玉使うなって言われてるし、これだけもらっても銀行に入れたら手数料取られておしまいじゃん。どうすんだよ、これ……」 「えっ、これで手数料取られたらあんまり残らないじゃん」 「そうなんだよ……つまりはこれをそのまんま使わないと駄目で」  とりあえず、慎重に甲を崩して値段を計算していく。どうも十万円くらいで、よく小学校時代に誰にもネコババされずに残ったなと感心する。いや、十万円ってことは、ここに繋いである五円玉は二万枚ってことだ。結構どころかかなり重いから、持って帰ろうとして諦めたといったところだろうか。なんでこんな重い物を自由研究で持っていったし。 「でも十万円だよ。結構な額だよ。これどうする?」 「どうするって言われてもな……」  これだけぶら下げて持っていって、全部五円玉で支払うのを想像した……どの店でも支払いを断られそうだな。だからと言って自販機に五円玉は入らない。  結局俺は、これを持って近所をふらつくことにした。  何故か姉もついてきた。 「というか、なんで姉ちゃんはうちにいるの。この間成仏してただろ」 「あれじゃない? 私の最高傑作が二束三文になったらたまらないと思って出てきたんじゃない?」 「……いや、十万円を二束三文にはなかなかできんだろ」 「でも私の最高傑作埃かぶってましたー。なんでですかー」  そう言われて、俺はぐんにゃりとして歩いて行った。  俺が今住んでいる町に比べたら、この町はずいぶんと萎びている。アスファルトは割れてぼこぼこしているし、店はびっくりするほど閉まっていてそのまんま錆びた看板だけぶら下がっている。  この瀕死の町並を姉ちゃんは「うわあ」と言いながら眺めていた。そりゃそうだろう。この町、なんで生きてるのかわからないくらいに、瀕死だから。  俺はどうしたもんかと思いながら、姉と一緒に五円玉の使い道を探すことになった。
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