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『降雪体質』
ささいな習慣に拘泥し、何を措いてもそれを遵守する面倒くさい人。そのこころは、
『こいつは雪でも降るかねぇ』
余人には理解の及ばないその規則が破られた際には、いつも何か大変な事が起こっている。
そんな、ルーティーンだかジンクスだかに固執する人々の中でも、とりわけ『降雪体質』の者は、その因果が逆なのだとテイは言う。
則ち、大事に因って習慣が崩れるのではなく、習慣が崩れる事に因って、大事に見舞われるのだそうだ。
「今日に限って、よりにもよって、偶々、そういうトラブルあるでしょ?」
気まぐれにいつもと違う道で帰ったら、酔っ払いに絡まれた。
つまりはそんな話なのだろう。どうやら『降雪体質』の人間にとって習慣とは、何か日常の異変を察知するアンテナの様に働き、その継続が則ちトラブルの回避であるという事らしい。
「Δ田って拘り強いよねぇ。熱いモノ、食べれるようになった?」
なるほど、言われてみれば心当たりはある。話としては面白い。
「だからね?『降雪体質』の人は、災厄を回避できる特別な人間なの」
そうやってΔ角は、無垢なテイを泥水で染めたのだ。
「でもそれはつまり、災厄に見舞われ易いって事だから、『降雪体質』の人間は、なるべく一緒に居て助け合わないといけないんだよ」
分かってる、これは親友を救い出したいなんていう、義侠心からくる心のざわつきではない。
「みんなで共通の拘りを作って、それを続ける事で平和の維持と、災厄の察知を行っているの」
Δ角の背後に誰かがいる。そんなうさんくさい奴等にテイを奪われた事に、私はどうしようもない怒りと嫉妬を感じているのだ。
「私のシフトは午前2時から8時まで、東に向かって永繫祝詞を唱えてるんだ」
そうやって他のコミュニティからテイを孤立させ、囲い込んだのだろう。
「へえーそっか、私確かに『降雪体質』かも」
胃に穴が開くような憎悪の感情を、テイに悟られぬよう必死に抑えて話を合わせる。
「ねえそれ、検証しようよ。久しぶりに、二人でさ?」
分かった分かった。
つまり『降雪体質』を否定できれば、テイは私の元に帰って来てくれるんだね?
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