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保健室に登校の報告をして、廊下に出たところで耳栓をつけた。周囲の音を遮断するためだ。テイが学校に来なくなってから、ずっとそうしてる。
教室内に私の席は無い。
『Δ角クビになったの、アイツ関わってるらしいよ。なんか怪しくない?』
『なにそれやばっ』
『マジ?やばっ』
『草っ、やばっ』
酷いデマである。私は、関わらせて貰えなかったのだ。
やばっ、やばっ、やばっ、やばっ…
やばっ、やばっ、やばっ、やばっ、やばっ、やばっ、やばっ、やばっ、やばっ、やばっ、やばっ、やばっ、やばっ、やばっ、やばっ、やばっ、やばっ…
なんでアイツ学校これんの?
なんにせよ時間の無駄。私は耳栓をつけた。どうしようもない。
図書館に入り、いつもの席に座る。あとは下校時間まで自習するだけ。私が見るのは参考書に並ぶ文字だけ。
とにかく皆勤賞だけは欲しかった。醜い言葉でヒソヒソと囀るアイツ等が平然と登校し続けて、害された側の私が登校を止めるというのがどうしても我慢ならない。
私は図書館で自習している。
優遇されている、なんて文句は出たそうだが黙殺である。
簡単だ、事実は隠蔽され、私はアイツ等よりも素行と成績が良く、何より親が偉い。
円形脱毛症を隠すために髪は下ろした。ついたあだ名が『サダコ』である。
負けない、絶対に負けてやるものか。
私は机にかじりつくように勉学に励む。県外の高校に通うのだ。何時間かかろうが、通うのだ。
放課後、カウンセリングを受ける。
「流石に成績は落ちたかな。でも十分に合格圏内だから、気にしなくて良いと思う」
保健の先生は、この学校で唯一私の味方である。下手に介入せず、強いて事務的な対応をしてくれる。
「しつこいようだけど、とにかく逃げるべきだと思う。いくらでも話は聞くから、貴女の精神衛生を第一に考えて」
面倒くさがらずに、面倒くさそうな応対をしてくれる。
「何がどうなっても、貴女が幸せなら私はそれで良いと思う。だって貴女は、自らの幸福のために他者を貶める様な人間じゃないもの」
好きにさせてやるから揉めるな、という事だろう。知ったような顔でやんわりと善行を圧しつけてくるクズ。信頼という建前で何か起こった時の責任を回避しているのだ。緩衝材を置くことで本質的な問題から目を逸らす、事なかれ主義の大人。しかしそれ故に、この人は私を救う恩師なのだ。
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