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それから、私がすっかり変わってしまったかというと、実はそんな事はない。
希望の高校へ進み、大学からは一人暮らしをはじめて、血を吐くような就活を経て、現在は商社に勤務している。
私は私を続けている。何も変わらない。
つい先日、とある宗教団体が未成年への脅迫、強要で告発を受け、世間を騒がせた。
『雪乞い達の学び舎』
来たる災厄から人類を救うため、永繁祝詞と呼ばれる祈りを信者達に行わせていたようだ。その衣装は胸部などがいかがわしく透けた着物装束で、きちんと繋げていたのか、確認するためと称して動画を送らせていたらしい。未成年者は一様に、深夜帯でシフトを組まれていたため、不登校になるケースが頻発し問題が露見したとの事である。
「………………」
考える。
私がテイから『降雪体質』の話を聞いたのは、テイが不登校になってから。
事実として、Δ角はクビになり、永繁祝詞なる儀式は存在していた。
では一体何時から、テイはいなかったのだろう。
テイが夕日に溶けた日?
テイと『降雪体質』の検証をした日?
それとも、もしかしたら…
だとしたら。
「……馬鹿馬鹿しい」
頭を振って、考えるのを止める。どうでもいい事だ。
真実など、どうでもいい。
そのままでいい。目を瞑ったままでいたいのだ。わざわざ瞼を抉じ開けてなんて、野暮だろう。
そう、私は私のまま。
成長叶わず、最も嫌悪していた、何一つ是正出来ない大人になった。思春期に感じていたそれは、つまり同属嫌悪だったのだ。
自己を満たすため、都合の悪い事は見て見ぬ振り、眼前に晒されても目を背ける。醜悪な大人共。しかし、今だから言える。
不都合なら、真実など要らない。
「ねぇタカぁ、今日は何して遊ぶ?」
今、私は幸福なのだから。
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