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25、未来へ
澄み切った青空の下、紅葉した楓が鮮やかに街を彩る。
散った葉が地面を覆い、足元さえも美しい秋の色に染め上げていた。
「綺麗だな」
康介が感嘆の声を漏らす。
彼の隣に立つ楓がベージュ色の肩掛けを揺らして小さく頷いた。
整然と立ち並ぶ紅い街路樹の道を、康介と楓はゆっくりと歩く。
頭に巻かれている包帯は相変わらずだったが、楓は自宅に帰ることが許された。
出血こそ多かったが、頭蓋骨や脳への影響は無いことが判明したのだ。
時によろめく楓の体を康介がしっかりと支えて、二人はゆっくりと前に進んだ。
「この道を楓と一緒に歩くことができて良かった」
「僕も、この景色を康介さんと一緒に見れて嬉しい」
紅葉の中で楓が微笑む。
以前よりも陰を帯びたその佇まいは、美しい絵のように康介の目に映し出された。
それは神秘的で儚くて……
思わず手を伸ばした康介が、強い力で楓の腕を掴んだ。
「康介さん?」
「さあ、帰ろう。俺たちの家に」
「うん」
神にも悪魔にもその存在を奪い取られないように、康介はずっと楓の腕を離さなかった。
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