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夜も更けて、銀次は勤め先のコンビニに行った。銀次の住む賃貸マンションから徒歩十五分ほどだ。
店に着くと、夜シフトの小早川と店長がいたが、もう一人銀次が初めて見る顔の男性がいた。若い。学生のバイトかも知れない。
「新しく深夜シフトに入ってもらうヤギュウマサムネさんです」
店長が男性を紹介した。
「ヤギュウです。よろしくお願いします」
男性が頭を下げる。少し言葉に訛りがある。どこか地方の出身だろうか。
「こちら、ヤギュウさんと一緒に働いてもらう京極銀次さん。分からないことがあったら、何でも彼に聞いてね」と、店長は銀次のことを紹介した。
一週間ほど前、深夜シフトの前任者である伊達が店をやめた。コンビニより時間給がいい深夜営業の居酒屋に転職すると言っていた。
「これで私も深夜のシフトから抜けることができるよ。まっ、忙しい時は手伝うとして、京極さんとヤギュウさんの二人で頑張ってね」
前任者が抜けた穴埋めに、深夜シフトに入っていた店長は、ほっとした顔をしている。夜シフトに続いて深夜シフトに早朝シフトもこなしている店長の働き方は、過労死してもおかしくないほどだったから無理もない。
夕方シフトの二人から仕事の引継ぎを終えると、深夜のコンビニは銀次とヤギュウの二人だけとなった。
「このコンビニは深夜になると滅多に客が来ないんだ」
この辺りは工場が多く立ち並び、昼間は人で賑わっているが、工場の操業が終了した深夜ともなれば、人気は無くなる。客がいない深夜は営業を止めてもいいのだけれど、店長は店を閉めたがらない。なぜ店を開けているのか、一度銀次は店長に聞いたことがある。その時の、店長の答えは「本部の指示なんだ」だった。
客が少ない分、深夜のコンビニは店内外の清掃や調理器具の清掃、廃棄商品のチェックなどの仕事がある
「まず、廃棄商品のチェックしようか。期限切れのものをスーパーカゴに入れてってね」
銀次はスーパーカゴをヤギュウに渡す。
「分かりました」と、ヤギュウはスーパーカゴを受け取る。
「ヤギュウマサムネって、何だか時代劇に出てくるような名前だな。柳生十兵衛の柳生て書くのかな?」
「いいえ、ヤギュウはカタカナです。それに、マサムネもカタカナです」
「うへー珍しい。日本にカタカナの姓があったなんて初めて知ったな」
「今の日本にはないでしょうね。でも、私がいた二十二世紀では普通です。漢字がありませんから」
「二十二世紀というと、君は、あのジクウ……」
「そうです。ぼくは時空難民なんです」
ヤギュウが言う時空移民とは、二十二世紀の未来から現代にやって来た難民のことだ。
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