時空難民

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 銀次は公園のベンチに腰掛けた。何か昼食に食べられるものは無いかと、フードバンクでもらった袋の中身をあらためる。賞味期限間近の菓子パンが二個入っていた。メロンパンを取り出して袋を破って齧り付く。甘い味と香りが口中を満たす。  メロンパンを食べ終えて、次にアンパンに齧り付いたとき、銀次は対面のベンチからこちらを見ている男性に気づいた。ハンバーガーを齧りながらじっとこちらを見ている。歳は銀次と同じぐらい。三十歳前後。  平日の昼間に公園で昼食を摂るなんて、あいつも俺と同じように失業者だろうか。じゃないよな。俺は所々染みが浮き出たパーカーにジーンズだけれど、あいつはジャケットにスラックスだ。俺よりこざっぱりとした格好だ。あれっ? あいつの顔、どこかで見たような……。うん、浅井に似ている。でも、あいつが平日の昼間に公園でハンバーガーを食べている、なんてことはないはずだ。  銀次がそんなことを思っていると、男性はベンチから立ち上がり、こちらに近づいて来た。近くで見れば、ジャケットのボタンは今にも取れそうだし、スラックスの裾は擦り切れている。ちっともこざっぱりなんかしていない。 「京極だろ? 京極だよな」  その男性はハンバーガーの欠片を口に含みながら言った。 「おれだよ。浅井だ」 「えっ、浅井? 浅井って、高校のときの……」 銀次は驚いた。まさか浅井だったとは。 「そうだ。高校で一緒だった浅井だ」 「こんなところで何してるんだ」 「会社を首になって、やることないから公園で時間潰してんだ」  浅井は自嘲気味に言った。 「お前が首ってか。びっくりだな」  高校でトップクラスの成績だった浅井は、偏差値の高い国立大学に入学した。高校の同窓会で会ったとき、某大手製薬会社の研究所で働いていると言っていたのだが。 「時空難民だ。会社があいつらを採用したんだ。なにしろ二十二世紀の知識を持ってるんだ。俺たちが太刀打ちできる相手じゃない。会社も重宝してるだろうよ」  初めこそ時空難民が働くのは、あまりスキルを必要としない職場だったが、暫くして、財界は彼らが持つ二十二世紀の科学知識や技術に目を付けた。その力を日本の産業に活用すれば、今や衰退する一方の日本を再び経済大国にすることができるだろう。そのような考えに沿って、高度なスキルを必要とする職場にも時空難民が採用されるようになった。もっとも、そのような時空難民たちは、アメリカや中国の企業に高給で引き抜かれていくのだが、それはまた後の話。  銀次は思い出した。ヤギュウもそうだった。  食べるものがなくなった時、何度か銀次は以前働いていたコンビニに行ったことがある。そんな時、ヤギュウは期限切れの弁当やパンをくれた。 「京極さん、持って帰ってください。どうせ捨てられるものです。人の役に立てて弁当も喜んでるでしょう」  ヤギュウは銀次が言った言葉を覚えていた。
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