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「…どう、ですか?」
「すごく…良かったよ。良かったなんて言葉じゃ言い表せないくらい」
笑みを浮かべながらそう言うと、芹澤くんも嬉しそうに笑ってくれた。
この曲が彼に伝わっていてよかった、そう思った。
あのアカウントで投稿した時点で、彼に僕が作曲家の暁ソウだとダラしているようなものだ。
応援してくれてありがとうとか、作曲家として何か言おうかと思ったけれど、その前にピアノの前の芹澤くんが口を開いた。
「先生、隣座って貰えませんか?」
芹澤くんが僕の座るところを空ける為に少し移動する。
僕はそれに従って空けてくれた場所に腰掛ける。
どうしたのだろう、そう思っていると芹澤くんの細い指が鍵盤の上に乗る。
「先生、俺が先に引くので入ってきてくださいね」
そう言って彼はピアノを弾き始める。
何のことかと思ったけれど、ピアノの音が聞こえた瞬間にすぐに分かった。
彼が弾いたのは先程と同じ曲の、中間部。
デュエットパートだ。
その手前から弾き始めた芹澤くんに、僕も指を鍵盤に運んだ。
デュエットパートが始まるまであと少し。
軽く息を吸って、指に力を入れた。
自分の中でテンポをとって、最初の音の鍵盤に押した。
そこからは、あっという間だった。
元から短いデュエットパートはすぐに終わってしまった。
もっと弾いていたかった、でもそれよりも楽しいとか幸せとか、そんな気持ちでいっぱいの時間だった。
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