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「…前に、好きな人がいるって話したじゃないですか」
そんな切り出しに、僕は1人ドキッとした。
好きな人、なんて、そんな話を切り出されるとは思っていなかったから。
僕はなんとか相槌を打つ。
「先生なんです。俺の好きな人」
「…え?」
なんて、信じられない言葉に目を丸くする。
彼はピアノの方を見ていて目は合わない。
何かの罰ゲーム?なんて、彼は絶対しないのにそう思ってしまう。
「ごめんなさい、気持ち悪いですよね。でも…」
「ちょ…、ちょっと待って!」
僕はつらつらと言葉を続ける彼を止めた。
頭が上手く回らない。
彼が、僕を好き、だなんて。
「…そんなの嘘だ」
「嘘じゃないです」
即答の彼に、びっくりして彼の方を見直すと今度はばちっと目が合った。
また心臓が跳ねる。
「今日で最後だから…後悔しないように、言っておきたくて。返事は、いらないので…」
「ま…待って。僕は…僕も」
僕も、なんて声が震える。
伝えるつもりもなかった、1人で抱えていればいいと思っていた気持ち。
どうやって言葉にすればいいんだろう。
好きだなんて言葉にするのは久しぶりで、酷く緊張した。
芹澤くんは、先生?なんてなかなか声を出せない僕に声をかけくる。
言わないと、なんて、そう思って僕は口を開いた。
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