63人が本棚に入れています
本棚に追加
挑発的にスカートを摘まみ上げられたのは無視する。隣に腰を下ろして、シガレットケースから取り出した煙草にオイルライターで火を点けた。あまねは煙草の煙を嫌がらない。
「とにかく、来須さんはそんなだから友達がいないんだよ」
「学生じゃあるまいし、友達なんているだけ煩わしいよ」
吸い込んだ煙をフーッと吐き出した。頭の中に重く溜まっていた疲れごと出て行って、つかの間、クリアになった心地がする。
「お前の方こそ、友達はいるのか。すみっこで読書してばかりじゃないだろうな」
あまねは本の虫だ。私室として与えた六畳の洋室は大量の書物に占拠され、他の家具が置けない有様となっている。
「見くびらないでよ。あまねは学校でカリスマなんだから」
「カリスマ?」
少なくとも、偉ぶって胸を張る仕草はカリスマっぽくない。
「みんなが注目してるの。あまねの話したことをメモに取って、繰り返し読んで感動している子だっているんだから」
「何だそれ。宗教でも興したのか」
「学校であまねがどんなふうなのか、気になる?」
「別に。それより昼に学校の近くで交通事故があっただろ」
「もお、つれないなあ。交通事故? あったよ」
不服そうに唇を尖らせながらも、あまねは頷いた。
「近くなだけじゃないよ。死んだ人のハトコが同じ学校の生徒なの」
「知ってる。話したりする仲なのか、その生徒とは」
「二人いるけど、片方は味方で片方は敵だねえ。来須さん、どうして知ってるの?」
「事故で死んだ水柱澪の妹が、俺の職場の同期なんだ。前にあまねのことを話したら、ハトコが同じ学校に通っていると云ってたのを思い出した」
「その同期って水柱渚さん?」
目を丸くするあまね。
「名前は聞いてる。すごい偶然だね」
渚は昼過ぎに真っ蒼な顔をして早退した。実姉とその旦那が交通事故で亡くなったのだと、課長からメールで周知された。残業中にも雑談で、事故のことが話題に上がった。
「本当に偶然なのかね? 事故の原因は猫が歩道橋から降ってきたことだとか」
最初のコメントを投稿しよう!