うりえる章:赤鞠7つばかり誤算

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 上司が携帯でニュース記事を読みながら話していた。猫がフロントガラスにぶち当たったので、運転者は急ブレーキを掛けたそうだ。水柱夫妻の車はその真後ろを走行していた。衝突を避けようと反射的にハンドルを切ったのか、隣の車線に飛び出した結果、大型トラックに潰された。名前は忘れたが夫は即死、妻の水柱澪も病院で息を引き取ったらしい。 「ははぁ。もしかして来須さん、あまねを疑ってる?」  今度は得心したように目を細める。 「あの猫の死骸を投げ込んだんじゃないかってこと?」  一昨日の夜だ。会社から帰ると丁度、マンション横の路上であまねが野良猫を抱きかかえ、その咥内に殺虫スプレーを噴射し続けていた。「この猫ねえ、ずっと五月蠅(うるさ)かったから駆除するの」と自慢するみたいに話した彼女。死骸は黒いビニール袋に包んでゴミ箱に捨てていた。  あまねには、平然と極端な行動に出るところがある。常識や倫理観が欠けているのか、それを自覚している様子もない。しかし俺は、だからと云って彼女を厄介者扱いする親戚連中とは違う。 「いいや、悪い。冗談のつもりだったが詰まらなかったな。先にシャワー浴びるよ」  煙草の火を灰皿で揉み消して立ち上がったが、「来須さん」と呼び止められる。  振り向いてみれば、あまねは身を乗り出して真っすぐに俺を見詰めていた。 「あまねが死んだら、悲しい?」 「何だよいきなり」  視線は逸れない。くりくりとした目が、今は真剣な色を帯びている。 「……お前に死なれたら困るよ。悩み事でもあるのか?」 「あは。大丈夫。その言葉が聞きたかっただけだよお」  困った奴だ。俺はその頭に手を置いて、髪をくしゃくしゃに乱してやった。「いやあ~」と喜ぶあまね。帰りが遅い俺だから、このくらい構ってやってもいいだろう。     ・・・・  五時五十分から十分おきに鳴るアラーム。何回目で起きられるかによって疲労度を測れる。一回目なら絶好調。二回目なら快調。今朝は三回目だったので、可もなく不可もなし。  顔を洗って髭を剃ってスーツに着替えて、ソファーで朝食を摂る。ビスケットが三枚に、プレーンヨーグルトも食べることにした。 「おはよう、来須さん。十一月十二日、六時三十一分だねえ」
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