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斎藤は木刀を持つ手と反対の手を萬吉に差し出した。萬吉は持ってきた羽織を渡して、ぐいと腕で目元を拭った。
「わても、自分の色だけ持っていたい。誰かの決めた思想が正しいかなんて分からんけど、その中で大切なもんを見失いたくない。綺麗なもん、町に纏わせたい」
俯いて呟く萬吉の前で、斎藤が浅葱色の羽織を纏った。その影の動きに釣られて目を上げると、陽射しに薄い青が美しかった。
「誰もが、誰かの色に染まってると思う。染め色を愛しむのは、お前の親から賜った感覚じゃないのか」
それだけ言うと、斎藤は遠くから土方の視線を察してその場から離れた。
萬吉はぴくりとも動けず、呆然とその場に突っ立ったままだった。汗が額から首筋へと流れていく。そこへ平助が走ってきた。
「斎藤と話すなんて珍しいな。何を話してたんだ?」
萬吉は「へえ」とだけ答え、しばし思い巡らしてから平助を見た。
「平助は、自分が誰の色に染まてると思う?」
「えっ?」
平助は驚いて目を開いたものの、やはりいつもの、育ちの良さを感じさせる真っ直ぐな眼差しで萬吉を見た。
「わたしには、伊東先生という尊敬する師がいてね。彼の影響を色濃く受けていると思う。それがわたしの誇りでもあり、彼の説く教えが生きる道だと信じてる」
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