浅葱色に染まる

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 あまりにも眩しい輝きに、萬吉は目が眩みそうだった。苦笑いさえ浮かんでしまった。 「ええなあ。そんなふうに思えたら」 「萬吉にも諭しを与えてくれた存在(ひと)がいるだろう?」 「どうやろなぁ」  それから萬吉は道具を手に、壬生寺の門を出た。  行き交う人の着物は「藍四十八色」か「四十八茶百鼠」のいずれか。つまり青か茶色か灰色ばかり。江戸幕府が出した奢侈禁止令(しゃしきんしれい)のせいだ。  この先、幕府が倒れるようなことがあれば、または寛容になれば、庶民の間に色が溢れるだろうか。そんな中で【藍色】が流行るようであれば誇らしいな、と思いながら萬吉は屋敷に帰った。 「蒅の世話、手伝わせてもろて、ええですか」  夕暮れに空が染まり始めた頃、帰宅した萬吉は父の背に声を掛けた。父は振り返り、萬吉の表情を見て小さく微笑んだ。 「もう、ええのか」 「ええのです」 「そうか。そんなら、群雲(むらくも)染めの注文を受けてるさかい、それ手伝うてもらうわ」 「へい」  
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