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だんだら模様で浅葱色に染められた羽織は、その月の十二日に納品された。豪商・鴻池から借りた金で作ったそれは二十着で二百両もするものだった。
麻織物のため、夏用としてちょうど良い。祇園や三条の町を見廻る浪士組の浅葱色はすぐに目に留まり、萬吉はいつも見かける度に足を止めて、彼らが行ってしまうまで見送った。
華美を避けるようにとの度重なる禁令に負けじと、色の濃淡を楽しむ人々の服装。その中でも彼らの色ははっとするほど鮮やかで、初夏の日差しに眩しい。
ーー涼しげでええなあ。夏の色や。
江戸の植木屋、成田屋留次郎の『都鄙秋興』という色刷図絵を見た時の興奮を思い出した。
様々に品種改良された朝顔の図鑑。その一つに、遠目に見て浪士組の羽織とそっくりなものがあったような。
萬吉は幼い頃に大丸屋の主人から更紗眼鏡を見せてもらったことがあった。様々な色が織りなす模様に夢中になり、それを見せてもらおうと毎日通ったものだ。
萬吉は色が好きだった。特に何色ということはなく、そのものが伝える独特のにおいを感じ取ることが好きだった。
額にしっとり滲んだ汗を拭き、萬吉が浅葱色に涼んでいると、浪士の一人が振り返って萬吉を睨んだ。
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