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彼は羽織を着ていなかった。鋭い目を逸らすことなく萬吉に近づいてくる。数名が驚いて彼に着いてきた。
萬吉はまさか自分に向かってくるとは思わず、足の裏が地面に縫い留められたように動けなかった。
「お前、素性を明かせ」
すごんだ男は顔立ちが良く、よく通る声をしていた。
「へえっ?」
「俺たちのことを見張ってただろう。長州の者か」
「ちっ......ちゃいます。うちは、あんたらが着てる羽織りを染めた藍師の息子どす」
萬吉の返答に、彼は一瞬柔らかな表情を浮かべたが、すぐにそれは引き締まった。
「土方さん、一般人を脅しちゃ駄目ですよ」
「うるせえ総司」
土方と呼ばれた男は、萬吉から目を逸らさずに答える。
「間者とも限らねえ。お前の家に連れていってもらおう」
周りの人が足を止めて様子を見ている。仕方なしに萬吉は「ええですよ」と震える足で彼らの前を歩いた。
先の六月某日には、京都を守るどころか相撲取りを殺傷した暴れ者の集団だと聞いている。できる限り関わり合いになりたくないと思っていたのに。
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