浅葱色に染まる

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*** 「すげぇ屋敷だあね!」  萬吉より二つ年上の男は沖田総司と名乗った。紺屋の屋敷は、蓼藍の世話や甕のある染め場や干場など、その工程を全て行うためとても広く、雇人たちが忙しく行き来していた。  先程、萬吉の父が浪士たちを正面から迎えて「こら、うちの(せがれ)ですがなんか」と言ってから、土方はこの沖田に「はやとちり」とか「一般人の迷惑」とか散々言われて、ヘソを曲げていた。 「土方はんは羽織り着ておまへんけど、なんでですか?」 「はあ?」  腕組みして明後日の方向を見ていた土方は萬吉の問いに素っ頓狂な声を出した。 「わかんねえのか? だせえだろ。色も模様も」  誰も言わないことを敢えてハッキリ言い切った。萬吉はいっそのこと清々しくさえ感じた。  浪士たちの他の者が顔を見合わせて苦笑いする中、収穫した蓼藍を(むしろ)で乾燥させていた父が、作業の手を止めずに言った。 「その羽織がええかどうかは、あんたらで判断される」  全員がその細い体を見つめた。父は「ふう」と息をついて腰をまっすぐに伸ばし、母屋に向かいながら「お気ばりやす」と言い残した。
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