浅葱色に染まる

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 平助の笑顔には自信や輝きが満ちているのに対し、斉藤は無表情で何も感情が読み取れなかった。  萬吉は「そうどすか」と頷いただけで、それ以上は深掘りせず、羽織にのしを当て続けた。 ***  彼らのところに度々出入りするようになってから、萬吉は浪士たちの間に裂け目があることに気づいた。  土方が羽織を着たがらないのは、羽織の模様や色を決めたのが、対立する芹沢鴨だからだ、ということも。  強くなっていく日差しの元、彼らが滞在する八木邸で、萬吉は浪士たちの羽織を順に洗っては物干しに引っ掛けた。 「今日もご苦労さん」  日々は流れ、萬吉がいる光景は浪士たちの日常になっていた。  誰もが萬吉に声を掛けていく。芹沢もその一人。彼については度々騒動を起こしていると聞くが、酒に酔っていない時は陽気で面倒見が良く、「お梅」というとびきり美人の女も芹沢のもとに通っていた。表向きは、菱屋からの借金の取り立てだということだったが。  八月十二日。今日も芹沢は鉄扇を持っていた。「尽忠報国」と、攘夷派の思想が刻まれている。  萬吉の視線に気づいたのか、芹沢は不敵な笑みを浮かべ、酒の匂いを連れて出ていった。  
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