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例えば、僕が医者だったなら。例えば、僕が魔法使いだったら。例えば、僕がヒーローなら。そんな、現実味のない絵空事ばかりが頭を過ぎる。彼女のことを考えると、胸が苦しくて仕方なかった。でも、それと同じくらいに、真陽が愛おしくて仕方なかった。好きだから、こんなにも苦しい。
「……ねぇ、朔くん」
いつの間にか俯いていた僕の耳に、彼女の声が届いた。顔を上げると、彼女は窓の外を見つめていた。
「雪だ」
彼女の視線を追って、僕は窓の向こうに目を向けた。白い結晶が空から舞い落ちてくる。初雪だった。まるで沈黙を諌めるようなタイミングに、僕は思わず泣きそうになる。
「……積もるかな?」
真陽が呟く。涙声を悟られぬよう「どうかな」と僕は短く答えた。翌日、雪は積もらなかった。そしてまた翌日、翌々日と日々が過ぎ去り――、十二月二十四日。真陽の誕生日を迎えた。十七歳。彼女の命の期限が、もうすぐそこまで迫っていた。
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