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「……真陽」
動揺して立ち尽くす僕に、真陽は「あ、これ?」と点滴が繋がれた腕を軽く上げた。
「ごめん、びっくりさせちゃったね。今朝少し調子が悪かったから、念のためだって。見た目ほど体調が悪いわけじゃないから、そこまで心配しなくても大丈夫だよ」
僕の不安を察してか、彼女が気丈に笑ってみせる。その笑顔に、僕は何も言えなくなった。「……そっか」と、短い返事だけが、どうにか唇から零れ落ちる。納得できていないことは、きっと真陽にも伝わっていた。それでも、今この瞬間の尊さを、僕らは痛いほど理解していた。砂時計の砂が落ちるように、終わりのときは確実に迫ってきている。そのことを、一秒ごとに実感する。分かっているから、余計に苦しかった。何一つだって受け入れたくないくせに、そうはさせてくれない事実が、紛れもない現実だった。
入り口で立ち尽くしたまま、一歩も動けずにいる僕を見かねて、真陽が「ほら、朔くん」と腕を広げる。その行動に一瞬躊躇ってから、僕は素直に彼女のすぐ側まで歩み寄った。
「……子供扱いしてる?」
「違う違う、そんなことしないよ」
強がりにも似た僕の軽口に、真陽が可笑しそうに笑う。
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