48人が本棚に入れています
本棚に追加
「私がそうしたいだけ。ほら、不安な時って人肌が恋しくなるって言うでしょ?」
だから、はい。と真陽がもう一度、僕に向かって両腕を広げた。僕は背負っていたギターケースを床に下ろしてから、誘われるままにその腕の中に体を委ねた。布越しに伝わる彼女の体温に、ひどく安心する。
「……あったかい」
思わずそんな感想が口から零れた。真陽が「でしょ?」と得意げに笑う。
「朔くんは、少し冷たいね」
「……ごめん。外が寒かったから」
「ううん、いいの。その方がここにいるって実感できるから」
そう言って、彼女は僕の体に回した腕に力を込めた。真陽の鼓動が、息遣いが聞こえる。生きていることを実感する。僕は目を閉じて、彼女の肩に顔を埋めた。
「……朔くん、もしかして泣いてる?」
「泣いてないよ」
「本当に?」
「うん」
そっか、と真陽は呟いて、僕の頭を優しく撫でた。触れられる感触に、余計に涙腺が緩む。このまま本当に時間が止まってしまえばいいのに。そう、強く思った。
最初のコメントを投稿しよう!